--- 6月 ---

 梅雨の季節、辺り一面の雨雲にしとしとと降り続く雨…。人里の人間達は、活気なく、家に篭もり、雨が上がるのを待っていた。それは、他の場所も同じだ。妖怪の山も、紅魔館も、迷いの森も、雨が上がるのを皆思っていた。
 ---そう。この博麗神社にいる博麗霊夢も同じ思いを馳せていた。
「…はぁ…」
 丸机の上にうな垂れる霊夢を横目に、ちょうど博麗神社に遊びに来ていた魔法使いの霧雨魔理沙も床に大の字で仰向けに倒れて落胆していた。
「なぁ…。…この雨って異変じゃないのか?」
「自然が起こしてることにいちいち異変とか言ってたら身が持たないわよ…」
「だとしても、もう2週間だぜ…。人里とか浸水してるんじゃないか?」
「飲み物に困らなくていいんじゃないかしら?」
「あんなろ過してない水飲めるかよ」
 そんな不毛な会話を繰り返す中、どこからともなく一枚の紙が天井からひらりひらりと落ちて霊夢の左手の甲に触れた。霊夢は、嫌々ながらもその紙を手に取り、紙に書かれた文面を読んだ。
『霊夢へ。
  ただの長い梅雨だろうとうな垂れてる所悪いけれど、異変が起きたわ。異変の原点は、北東へ空高く雲海を超えた先に突如として顕れた小さなお寺よ。そこからかなりの負のエネルギーが雨となって放出されているわ。それを受けた人里の人間達は、生きる気力を削がれ、まともな生活が出来なくなっているわ。このまま放置すると、幻想郷は無法地帯となって、結界の維持が出来なくなるわ。何度もあなたにお願いしてるのは申し訳ないけど、あなたしかいないの。よろしくね♪      八雲紫』
「断る」
 霊夢は、紙をくしゃくしゃにし、ゴミ箱を投げ捨てた。それを、魔理沙は拾い上げ読んだ。
「やっぱ異変だったのか…。おい、霊夢!」
「行かない」
 ----即答。魔理沙は、それだけでもう怒りにぶつけた。
「お前それでいいのかよ…。幻想郷の危機だぞ?」
「知らないわよ。あんたが行きなさいよ。あんたでもできるでしょ」
「……(ギリッ)。あたしじゃ力不足なの…わかってるだろ…。霊夢の力がないと異変は解決できないんだ。だから、来てくれよ」
「イヤ。私はもう行かない」
 霊夢は、断固として考えを変える気は無かった。魔理沙は、その姿を見て、背後からスペルカードを放った。霊夢は、それを分かったかのように、瞬時にそれを避け、距離を取った。
「……何のつもりよ」
「お前が行かないというなら……、力づくででも連れて行く!」
「……ふん。後悔してもしらないわよ」
 瞬時、霊夢と魔理沙の戦いは、切って落とされた。