「それ…彼自身もわかってないことらしいの」


「は?…どういうことだよ」


「休戦協定を破棄したことに、身に覚えがないんだって。


そこだけすっぽりと記憶が抜けてるとかで」


「魔族が記憶障害ぃ?」



眉を寄せたレンが、思いのほか大きな声を出した。


ああ、そんな大きな声出したら、看守にバレちゃうじゃない。



「……信じられない話だけど、“智の王”も何かにハメられたと考えれば話はつながるな。


あいつの命で、捕虜の扱いも酷くなった。


捕虜を大切にする、という方針もあいつが立てたものだったのに……変だとは思ってたんだよ」


「そんな……」



ランスさんの命令で、捕虜の扱いがひどくなっただなんて。


そんなの、信じられない。


私の前では、あんなに優しいのに。メイドさん達にも、先代様と違って慕われていたのに。



「…はああ…こんなことじゃ俺の仕事も増えそうだな……。


王都に帰ったらまた書類に追われるのか…」


「それだって、レン!ここから出ないことには始まらないよ」


「あー…書類仕事をしないでいい牢獄もオツなもんだよ……」



どんだけデスクワーク嫌いなの!


現代社会だったら生きてけないよ!