2016 Spring


 高3になった。春が、やってきた。


「由樹人ってさー」
「ん?」
「不健康な身体してるよな」
「……どういう意味」
「そのまんまだよ、細すぎじゃね?筋肉ある?」


 そう言って松比良(まつひら) 安幸(やすゆき)こと安は、自分の腹の辺りを撫でながら俺の腹筋を服越しに凝視してきた。
 男に自分の身体を舐め回すように見られるというのは思っていたよりもゾクッとするものがある。もちろん、良い意味ではなく。


「あるよ、疑うんなら触ってから言えよー」
「細マッチョってやつか?だから由樹人はモテて俺はモテないのか?」
「知らないよ」
「もっと親身になって聞いてくれよ」
「とりあえずそのチャラチャラした見た目をどうにかすれば」
「黒髪にしたらお前と被るじゃん」
「もっと頭使え」


 安のことは、俺も第一印象はチャラそうな奴だと思っていた。
 襟足が隠れてしまうほどの長い髪は明るく染め上げた茶髪で、話し方もいつも気怠げだ。
 けれど意外と真面目なところもあったりするし、いかにも女遊びをしていそうな見た目のくせに今まで付き合った彼女はさほど多くもなく、至って普通の男子高校生だったりする。
 ちゃんと話さえすればいいところも沢山見つけられるはずなのだが、何せ安の見た目がこれなもんだから女子は近づき難いのかもしれない。
 そう考えると、俺のように至って普通で害のなさそうな奴に告白する方が安全というわけだ。つまり俺は安全地帯。