昼食の後、俺と千咲先輩の友達だと言う友香さんは安達と離れてアトラクションに行くはずだった。
 けれど腕を引かれるままについて行った先にはアトラクションのアの字もなく、近くにあった自販機で買った缶コーヒーを有無も言わさず渡された。
 わけの分からないままそれを受け取りプルタブを開けてコーヒーを喉に流し込む。友香さんも同じように黙ったままコーヒーを一口飲んだ。


「あのさ」
「……はい」
「単刀直入に言うけど、いい?」
「何でしょうか」


 聞かれる内容については想像がつくものの、何となく緊張してしまう。


「千咲と何かあったでしょ」
「………」


 想定通りだが、返答に困る質問でもあった。


「隠さないで!千咲の様子がおかしいことくらいとっくにわかってるんだから。高校の時から君のことはよく聞いてたし、大体のことは知ってる」
「……千咲先輩から何を聞いてるのかは知りませんけど、俺が友香さんにお話しする義理はありません」
「何それ、部外者は黙っとけってこと!?」
「そこまでは言ってないじゃないですか……」
「でもそういうことでしょ!けど残念でした!千咲は私にとって大事な親友だし引き下がるつもりなんてないから!」
「どうしてそこまで俺達のことに首を突っ込んでくるんですか。先輩が頼んだわけでもないんでしょ?」
「それは……っ」


 顔をうつむかせた友香さんが肩を震わせた。それが泣いているのか怒っているのか、俺には表情が見えなかったけれど、きっと後者なんだろう。
 彼女はきっと誰よりも千咲先輩を傷つけた俺を恨んでいるに違いない。


「千咲はいつも、あんたと関わると不憫なくらい辛そうにしてる……。それがきっと私には知らないことがあってのことだって分かってた。けど、あんたもよ」
「……はい?」
「あんたも、千咲と同じ顔してんの!」


 友香さんは眉に深い皺を刻み、射抜くような鋭い視線を放った。


「どうしてそんな風になっちゃうのよ。2人して遠慮でもしてんの?それとも踏み込むのが怖い?」
「………」
「何とか言いなさいよっ」


 言いたくても、言葉が出てこなかった。
 確かに千咲先輩は俺のことを突き放したし、酷い言葉を投げかけられたりもした。
 でもそれにだってきっと理由はあって、そんなことを平気でできるような人じゃないってことは俺も知っていたんだ。
 でも、怖かった。会うたびに嫌われていくような気がして。向けられた視線も、態度も、全てが俺を強く否定しているような気がして。聞きたくなんかなかった、千咲先輩の気持ちなんて。
 千咲先輩は俺を遠避けたけど、俺はそんな千咲先輩から、逃げたんだ。俺はどうしようもなく、臆病な男だった。