「由樹人くん……」


 千咲先輩の小さい声がして顔を上げた。まだ顔に熱が集中していてとても先輩に見せられたものではないんだけれど、今はちゃんと先輩を見るべきだろう。


「ごめん、あたし……由樹人くんのことは大事な後輩だって思ってるけど、好き、とかそういうのじゃ……」
「……はい」
「だから、本当にごめんなさい……」


 チクッチクッと心臓が何本もの針で刺されるような痛みが襲う。
 本当は少しでも気を緩めてしまえば涙がこぼれ落ちてしまうそうだった。
 それでも、せめてこんな時くらいはカッコイイ自分でいたくて。こんな、先輩にフラれたダサい男のくせに。
 それでもまだ先輩にカッコイイと思われたいという下心で、俺は懸命に笑って見せた。


「そうですよね、変なこと言ってすみませんでした!」


 それじゃあまた、と何でもない風に片手を上げて見せると千咲先輩は少し困ったように笑った。


「……うん」


 千咲先輩が頷くのを確認してから、俺は我慢していた涙を見られないように慌ててその場から走り去った。

 疼く胸はそれからずっと治まることはなく、俺の中の苦い苦い思い出になった。

 中2の、あの頃。