「あの、高宮さん」
「楓花、今付き合ってるやつ、いないんだよな?」
「……何ですか、いきなり」
「いるのか?」
耳元で響く湊真のいつになく真剣な声色に、私は素直に答える。
「……いないです、けど……」
「……じゃあさ。俺たち、もう1回付き合おっか」
「……え?」
「もちろん、もう次はない。これで最後だから」
「ちょっと、待ってよ。何、言ってるの?」
「言葉の通りだけど?」
頭のネジがはずれてしまったのかと思ってしまうようなセリフに、つい敬語を使うことを忘れてしまう。
冗談を言うにもほどがある。こんなセリフ、冗談でも言っちゃダメだ。
「バカな冗談やめてよ」
「冗談でこんな大事なこと言わない。自惚れじゃないと思うんだけどさ、楓花、今も俺のこと好きでいてくれてるんだよな?」
「っ! ば、バカなこと言わないでよ!」
「本気だし。否定しないってことは、やっぱり俺のこと好きなんだよな? お得意のアマノジャクだろ? 素直になって、本心答えろよ」
「何言ってるのっ、もう離してっ! からかうのはやめてよっ!」
湊真の言葉に頭に血が上り湊真から逃れようと体をくねらせるけど、湊真の腕に力がこもってそれは叶わない。
「からかってない。再会してからいつも、楓花のことを考えてた。楓花が俺のことを好きだと思ってくれてるんなら、俺たち、よりを戻そう。今の俺たちなら大丈夫だ。もう昔みたいな別れ方は絶対にしない。……もう、手を離したりはしない」
「ちょっと待ってよ……っ。湊真、自分が何言ってるかわかってるの? そんなこと言うなんて、おかしいよ。湊真は結婚して……指輪だってしてるのに、そんなこと言うなんて……っ」
「何もおかしくない。さっき話したけど、こんな指輪なんて所詮、プライベートな話をさせないための飾りものでしかない。それが真実だよ」
「っ!? んぅ……っ」
後ろから抱き締められていた体を湊真と向き合わされた途端、湊真の唇が私の唇を塞いだ。
角度を変えて合わせてくる湊真の唇のやわらかさや熱は、あの頃と何も変わっていなくて。
でも変わっていることだってある。それは、湊真の心は私じゃなく指輪の相手にあるってこと。
指輪をあんなにいとおしそうに見ていたのに、“飾りもの”だなんて……そんなわけないじゃない。

