私は彼のことが苦手です。

 

食事の後、片付けは自分ですると言ってきた湊真だったけど、おいしいお肉をいただいた上に食料の代金も払ってくれたお礼にと、私は片付けまで引き受けた。


「高宮さん」

「ん」

「片付け終わったので、私帰ります。ごちそうさまでした」


料理をしている時とは違い、リビングのソファに大人しく座っていた湊真に声を掛ける。

振り向いた湊真にはご飯を食べていた時に浮かべてくれていたやわらかい笑みは浮かんでおらず、笑顔すら見せてくれていない。

湊真の視線が真っ直ぐ私を捕らえていて、その表情に心臓が小さく音をたてる。

何でそんな目で見るの……っ。

視線から逃げたい気持ちに襲われた私は、「じゃあ」と言って玄関に向かおうと踵を返した。……でも。


「楓花」

「っ!!」


もう何年も呼ばれていなかった名前が湊真の声に乗せられて飛んできて、大袈裟なほど私は体を大きく震わせて立ち止まってしまう。

大きく跳ねてしまったのは心臓も。

再会してからは「野瀬さん」や「お前」としか呼ばれていなかったのに……何で急に名前なんて呼ぶの。

動けずにいた私に湊真が近付いてくる。

その気配を感じながらも、どうしても体は動いてくれなくて。

気付いた時には、湊真の腕が後ろから私の体を捕らえていた。