私は彼のことが苦手です。

 
「じゃあ。いただきます」

「……いただきます」


湊真は箸を手に取り、炊き立てのご飯、すき焼き、サラダを次々と口に運んでいく。

その箸使いや食べ方は以前と変わらず綺麗なもの。

つい見とれてしまいそうになるけど、冷えないうちに私も食べようと箸を動かし始める。

うん、すき焼きの味は上出来だと思う。さすが父親直伝の味だ。

それに、お肉もいいものというだけあって、やわらかくてすごくおいしい。


「うん。うまい」

「えっ?」

「すき焼き。これ、どんな味付けしてるんだ? 今まで食べたすき焼きの中で一番うまい」

「!」


そう言いながら本当においしそうに湊真が次々と口に運んでいくから、私は食べる箸を止めて呆然とその姿を見つめることしかできない。

……どうしよう。……嬉しい。

素直に嬉しい気持ちが湧き上がってきて、鼓動が少しずつ速度を上げていくのを感じる。


「何。もしかして、人には教えられない極秘レシピとか?」

「あっ、いえ、そんなんじゃないです。えっと、割り下の隠し味に少しお味噌を入れてるんです。父親から教わった家庭の味ってやつです」

「へぇ。家庭の味、ね。いい味だな」

「……ありがとう、ございます」


再会してからはほとんど見せてくれなかった湊真のやわらかい笑顔と言葉に囚われてしまう。

こんなに真っ直ぐ褒めてくれるなんて思いもしなかった。

何よ……昔と同じ表情、できるんじゃない……。

今の湊真にも昔と変わっていないところが残っているかもしれないことに気付いた私は、湊真のことがどうしても気になってしまって、あまり料理の味を感じることができないまま、食事を終えてしまった。