「仕事ができて見た目もそこそこのお前を実際に見たことであの女医にはいい薬になったはずだし、しばらくは大人しくしてくれるだろ。これで今後の仕事も少しはやりやすくなる」
「……やっぱり最初から仕組んでたんですね」
「MRのサポートしてんだから、MRの生産性向上のために働くのは当然の仕事だろ? 仕事に関係のない色恋やら見合い話やら持ちかけられたら、仕事が進まないんだよ」
「それは、そうですけど……。でもそういう理由なら、やっぱり私じゃなくても良かったじゃないですか」
理屈は確かにわからなくはない。でも巻き込まれる私の立場にもなってほしい。
「いや。お前にしかできなかったよ。実際、いい思いしただろ? 俺の妻を演じられて、女医の悔しそうな顔も見れて、優越感、覚えなかった?」
「……はぁ!?」
「図星か」
「そんなこと、1ミリたりとも思いません!!」
「やっぱり素直じゃないな。野瀬さんは」
「ほんとに思いませんから!」
「はいはい」
何故か愉しそうに笑う湊真から私は顔を背け、外に流れていく景色を見つめる。
……悔しい。
どうして、図星、なの。
どうして、優越感なんて持っちゃってるの。
どうして、湊真とこうやって言い合えるのが楽しいって思っちゃうの。
どうして、湊真の笑顔を見て嬉しいって思うの。
この人のことなんて、苦手なのに……どうして。
疑問ばかりが頭を埋め尽くしていく間に、車はマンションに到着していた。

