今日は会社には戻らず直帰するという話になり、湊真の運転する車でマンションへと向かっていた。
ほとんど役に立てなかったとは言え人前に出て仕事をするのはほぼ初めてのことで、正直気疲れしてしまったから送ってもらえるのは助かる。
それに湊真の運転はまるで以前の湊真を思わせるような丁寧さがあり、周りの車への気配りも完璧で、乗っていてすごく安心感がある。
気を張っていなければ、その心地よさについ寝てしまいそうだ。
「やっぱりお前を連れて行って正解だったな」
「特に役立ったとは思えませんけどね。これなら他の人でも良かったですね。」
「そんなことないって。薬剤の説明もしっかりしてくれてたし、助かったって」
「……はぁ」
急に褒められると反応に困ってしまって、私は気の抜けた返事しかできない。
「それに、この役はお前にしかできなかったし」
「どういうこと? ……ですか?」
つい敬語が抜けてしまって、言い直す。
「たまにいるんだよ。寝てくれたら治験に協力するって言ってくる女が」
「は!?」
寝る!?
「さっきの女医がそうなんだけど。そんなことしなくても治験に協力してくれる患者や医者はいるっての。体で繋ぐ信頼なんてこっちからお断りだ」
「……」
「寝てくれたら」なんて言ってくるようなお医者さんがいることにも驚くけど、湊真が結婚していると知っていてもそんなことを積極的に言ってくるなんて。
頭のいい人が考えることは理解できない。

