私は彼のことが苦手です。

 
勉強会はスムーズに進み、私のサポートはパソコン操作や資料管理くらいで、ほぼ雑用だけで終わった。

今は一部の医者や関係者が講義室に残っており、湊真に細かい部分に関する質問を投げかけている。

私はその横で湊真が次々と回答していく声を聞きながら、パソコンや資料の片付けを進めていた。

結局、雑用のために呼ばれただけだったな。

事務員らしくていいのかもしれないけど、湊真との差が大きいことを思い知らされてしまった。

話には聞いてはいたし、オフィスで見せる様子からも感じてはいたけど、湊真は本当の本当にデキル男なのだと改めて知った勉強会だったと思う。

悔しいけど、湊真の実力を認めざるをえない。


「高宮さん、論文をいくつか確認させていただきたいんですけど、実際に見せていただくことは可能です?」

「はい。もちろんです」


綺麗な女医さんとのそんな会話が耳に入ってきて、私は話の邪魔にならないよう、湊真に論文資料の概要をまとめた資料を差し出す。

湊真はまるでバトンを受け取るように自然な動作で私から資料を受け取り、湊真が笑みを浮かべて私に目配せをしてくれた時、それまでは私の存在が見えていないような態度を取っていた女医さんが「あら」と声を出した。


「同じ指輪……もしかして、こちらが噂の奥様なの?」

「えぇ。普段は会社の方でサポートを任せているのですが、今日は同行させていまして」

「そうなのね。夫婦だから何も言わずとも、お互いの考えがわかるというわけね。当てられちゃうわ」

「綺麗な女性だと同僚たちと噂をしていたんだが、そうか。高宮くんの奥さんなら手を出せないな。ははっ」

「申し訳ありません。私の大事な妻ですので、遠慮していただけると幸いです。彼女は薬剤師資格も持っていますし弊社の商品の知識も十分ありますから、薬剤師の立場からの意見が必要であれば、何でも聞いてもらって構いませんので」


目の前で繰り広げられる会話に私は口を挟むことができず、呆然と見るしかなかった。

湊真が私に指輪をさせた理由が、この会話にあったのだと気付く。

この女医さんが明らかに湊真に気があることは、私に投げかけてくる見定めるような視線や今まさに浮かべている少しひきつったような笑顔、湊真への態度を見ていれば手に取るようにわかる。

“私”という存在を実際に見せ付けることで、今後、湊真に女性が近付いてこないように仕組んだんだ。

そして、勘違いかもしれないけれど、この場で私に男性を近付かせないためにも。

結論から言えば、結局、私はいいように使われただけなのだ。

やっぱりこんな仕事、どうにかして断るべきだった……っ。

嫌な悔しさが生まれた瞬間、薬剤の効能に関して質問され、私は知識を振り絞りながら、時にはタイミングの良すぎる湊真の助言に助けられながら、何とかその場を切り抜けたのだった。