私は彼のことが苦手です。

 
「ほんと、どうして女は理由を知りたがるんだか。言ったって信じないくせに、自分のことは棚にあげる。面倒な生き物だよな」

「はぁ!?」

「あぁ、最後の言葉は余談だ。気にしなくていい」

「!」

「俺は男、お前は女。理由はそれだけだ。あと、お下がりとかじゃないから安心しろよ。ほら」

「ちょ……っ」


湊真の手に乗っていた指輪が外の光を受けてきらめきながら、私に向かって放られる。

私はつい反射的に、その指輪を受け取ってしまった。

お下がりじゃない、って……それはそれで何か裏がありそうで、はめたくなくなるんだけど……。


「そろそろ時間だな。それ、絶対になくすなよ」

「!」


湊真は私に念を押し、ひとり車を降りていく。

「なくすな」という言葉に考えを巡らせる。

……バッグのどこかに入れようものなら、かなりの確率で後で慌てることになる。

だからと言って、こんな高価そうなものを車に置いていくわけにもいかない。

……つまり、私がこの指輪をなくさない方法はひとつしかない。

私の“特技”をうまく逆手に取った湊真に自分は負けたのだと気付いた私は、数秒間自分の感情と戦った後、これは仕事だと諦めて湊真と同じ指にその指輪をはめた。

それでも感情はどうしても表に溢れ出したいと叫んでいて、私は抑えつけるようにしながら感情を口に出してしまう。


「……湊真のバカ!」


付き合っていた頃は言う状況なんてなくて、一度も湊真に向けて言ったことのない言葉。

とは言っても、湊真はすでに外にいるから聞こえるはずもなく、私の感情は不完全燃焼のまま、私の中でくすぶり続けていた。