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私には、苦手な人がいる。


「……私、あの人苦手。」


就業時間開始10分前。

私は朝から、入社当初から仲のいい同期の美紗子(みさこ)のミーハー話に付き合っていた。

そんな会話の中、つい本音を零してしまうと、美紗子が信じられないと言わんばかりの表情を浮かべてきた。


「えっ、どうして!? 今のあたしの話、ちゃんと聞いてた? 高宮(たかみや)さん素敵だよねってエピソードを伝えたはずなんだけど! 高宮さん、超いい男じゃん。何に対しても神対応だし、仕事できるし、性格も捻じ曲がってなくて優しいし、イケメンだし」


美紗子は私の言葉に反論を繰り出してきて、まるで取引先の人間を説得させるように、その良さを訴えてくる。

うん。そうだね。美紗子が言ってることは認めるよ。

その言葉の中には、この場所で否定できるところなんてほとんどない。

間違いなく、100%みんな同じことを口を揃えて言うと思う。

……でも。


「……やっぱり苦手なんだよねー。高宮さんって、すっごい苦手」

「野瀬(のせ)さん。おはよう」

「え?」

「ひっ!」


再び苦手だと強調した瞬間に名前を呼ばれた私は、声の方を振り向いた。