桜の舞う季節がやった来た。
私はいつもとは違う通学路を、歩いていた。
今日から、毎日通る通学路。
散っていく桜の花びらを、ジーっと見ていると後ろから、
「美桜ー!何、ボーッとしてんの?」
急に背中に飛び乗られ、結構痛いかも…。

後ろから来たのは、親友の小林 由香。
私たちは小学校からずっと一緒。
サバサバしている性格に、黒髪ストレートがとてもきれい。顔も、鼻が高くて目も大きくってすっごい美人。

私とは全然違う。

私は、矢野 美桜。ぱっちり二重とよく言われる目、茶髪の猫っ毛。性格もおっとりしていると言われる。
由香は社交的で、友達が多くて彼氏もいた。
それに比べて私は、人見知りで友達も少なく、彼氏もいない…。

桜の花を見ながら歩いて行くと、私たちが今日から通う高校に着いた。
今日は、入学式で私も由香も緊張気味…。

「ねぇ、由香。同じクラスかなぁ。友達出来るかな。…彼氏とか、出来るかな。」
そんな事を聞くと、由香は
「どうかな。5クラスもあるし、ならない確率の方が高いでしょ。友達は出来るでしょ。彼氏は…、美桜は可愛いしすぐ出来るかもよ」
笑いながらそう言って、クラス表へと向かった。

由香、冷たい…!

ビクビクしながら、自分の名前を探してみると
「あ、私3組だ。」
「本当?私も3組!よかったぁ~、由香と一緒だ!」
「はは。これで7連続じゃん。」
「うん!すっごくうれしい。由香もうれしいでしょ?」
はいはいと流されながら、教室に入った。

やっぱり、全然知らない人ばっかり…。
立ち尽くしていると、後ろから
「ちょっとどいて。通れないんだけど。」
声のする方を見ると、そこにはさらさらした髪をガシガシとかきながら、眠たそうにあくびをしているカッコいい男の子がいた。

しばらくしてから彼と目が合い、私は見いってる事に気づいた。
ハッとして慌ててどくと
「ありがと」
それだけ言い、席を確認し席に座るとすぐに寝てしまった。

クールな人だったな。
カッコよかったな。

さっきのやり取りを思いだし、少し顔が赤くなった気がした。すると由香が、
「もう!早く席に荷物置きなよ。…あの人のこと、そんな気になるの?」
ニヤニヤしながら言われ、私はもっと顔が赤くなった。
「そ、そんなわけ、な、ないじゃん!」
急に大きな声を出してしまい、一気に視線が集まってしまった。
由香は、そうかそうかと言って笑ってる。

失敗したぁーー!
もう!由香ってばぁ!

急いで座席表を見ると、あの人の横だった。
座席表には”柳沢”と書かれていた。
席に座ると、まだ柳沢君は寝ていた。

寝不足かな? ちょっと、寝すぎじゃない?
あ、穏やかに寝ている顔も、整っててカッコいいけど可愛いかも…。

柳沢君は、私が見ている事にも気付かず、ずっと寝ている。
すると、柳沢君の口が動いた。そして…
「み お …う」

え⁉今、私の名前?
言ったよね? どうして?
会ったこと無いよね?

混乱してしまった私は、気になって仕方なかったけど、聞けないまま入学式が終わってしまった。
そして帰り道、散る桜を見ながら、柳沢君の寝顔と寝言を思いだし、顔が赤くなるの感じた。 なんだか、胸も少しも苦しくてドキドキしている。

『み お …う』

あれは、私に向けて言ったのかな。
何度も何度も考えても、やっぱりわからなかった。

柳沢君かぁ…カッコいい人だったな。
また話せるかな?
明日、話してみようかな…。
でも、寝てるしなーー。


あのクセのある低い声で呼ばれた自分の名前が、ずっと頭から離れなかった。

『み お …う』
また呼んでほしい。
そう思えた人は、柳沢君が初めてだった。

初恋もまだの私は、これがどんな感情なのか気付かないまま、頭の中が柳沢君でいっぱいにしていた。

私の初恋は音をたてず、静かにやって来た。