キールが気づいたときには既に遅く、稲妻が落ちた後だった。
声を発することなく落ちてきた稲妻は、キールの真横の地面に容赦なく落ちてきた痕跡を残していた。
唖然としているキールを横目に、今まで木の上から眺めていたアーロンが隣に降りたと同時に、カレンに手裏剣を投げつけた。
しかし、カレンの周りから風が吹き出たかと思うと、その風が一瞬で強さを増して小さな竜巻となり、カレンの身を守った。
「あんたが出てくる前に計画を終わらせたかったんじゃけどな…」
その小さな竜巻が消える頃に、その中心に人形が現れた。
「ミ、ミルフォード様…」
状況に唖然としていたのは、カレンも同じであった。体を動かし、すぐにミルフォードと呼ばれた長身で緑の長髪の青年に近づこうとするが、体が動かないままであった。
「カレン…」
その顔は無表情でカレンに背中を向けていたが、静かに言葉を呟いた。
「は、はい、ミルフォード様…」
刹那
先程キールの横に落とされた稲妻がカレンに降り注いだ。
一瞬で全身に電撃を食らったカレンはその場に倒れた。
「無様ですね」
言葉には何も感情がなく、倒れているカレンにも見向きもせず、淡々と喋り始めた。
「私は無駄な争いは好みません。あなた達がその伝説の武具を渡して頂ければ、これ以上何も被害は出ません。早くお渡しください」
ミルフォードは右手を差し出し、それ以上動く気配は見せなかった。
「断るって言ったら?」
「愚問ですね。死んで頂くだけです」
死ぬという単語が出た瞬間、今までにない殺気を3人とも感じて、いつの間にかキール以外のアーロン、コリーも武器を手にしてキールを中心に並んで構えていた。
「コリー、作戦は?」
キールがコリーに横目で視界に入れた瞬間、懐にミルフォードが迫ってきていた。
「それが油断となるのですよ」
ミルフォードが中指を曲げた瞬間、キールを中心に鎌鼬が3人に襲いかかってきた。
全てが突然のことで、構えていたにも関わらず一瞬で倒されていた。
ボロボロになりながら起き上がる3人だが、コリーは苦笑を加えながら喋り始めた。
「作戦は、ミルフォードに見つかった時点で決まってるよ」
次の言葉が分かるかの様に、残りの2人も苦笑を浮かべていた。
「ぶっ倒すだけだ!」
その言葉と同時に3人はミルフォードに向かって襲いかかった。

そして、今までで一番大きい閃光が森から近くの村まで全てを包み込んだ。

それが、この物語の始まりを意味していた。


「ねえ、ママ。パパは?」
「……」
「ねえ、ママ。なんで、村が騒がしいの?」
「……」
「ねえ、ママ、なんで…泣いてるの?」