――翌日、校舎の正面で明が待っており、ため息が自然に出る。玲奈は近づき仕方なく挨拶を交わす。
「私に何かお話があるんでしょ?」
「うん、ちょっと人気のないところまで宜しく」
 誘われるまま渋々ベンチまで着いて行くと、周りに人がいないことを確認して話し掛けてくる。
「一昨日、天使と悪魔の大きな戦いがあって、玲奈さんも戦ったてルタから聞いたんだけど本当?」
(ああ、八神さんじゃなく玲奈さんになってる。なんか嬉しくない……)
「本当」
「光集束出来たの?」
「出来ない」
「どうやって戦ったの?」
(なんか、ウザイ……)
「ごめんなさい。もう正直に言います。私、楠原さんのこと嫌いになってます。もう話し掛けないで下さい」
(本当は嫌いではないけど、確実に好きではない)
 驚いた顔をした明だったが、しばらくの沈黙の後に話を切り出す。
「もしかして、千尋のことで怒ってる?」
(千尋ちゃんは関係ない。むしろ、知り合うきっかけを作ってくれた明君には感謝したいところだ)
「千尋ちゃんは男の子でしょ。怒る理由はないし怒ってもない」
「じゃあなんで嫌われたの?」
(理由がない。私最低だな……)
「いろいろありすぎて頭の整理がつかない。さっき嫌いって言ったけど、本当は嫌ってない。ただ、今はそっとしといて」
 一方的に言うと玲奈はその場を走り去る。当然授業を受ける気持ちになれず、ストレス解消にルタの神社へ向かう。ルタのハイテンションなエロボケに、ツッコミを入れたら少しは気が紛れるだろうと踏んでのことだったが、タイミング悪くどこにもいない。
(三日連チャンで千尋ちゃんのとこ行くのもはばかられるし、どっかで時間潰してから帰って寝よ……)
 古本屋でガラスの仮面を一巻から立ち読みし、夕方になると帰宅する。お風呂から上がり自室のドアを開けると、ベッドにルタが居る。今まで幾度か見てきた光景なのでことさらびっくりすることもない。
「来てたんだ。昼間神社に居なかったけど、どうしたの?」
 いつものように話し掛けるが、ルタにいつもの元気が全くない。
「ルタ、大丈夫?」
「ごめん、玲奈」
 神妙な顔つきで突然謝るルタに玲奈は驚きつつも、訝りながら隣に座った。
「僕が巻き込んだんだ」
「何の話?」
「二日前の戦い。僕がデビルバスターの資質があるなんて言ったから、こうなってしまったんだ」
「話が見えないんだけど?」
「先の戦い、玲奈は死んでもおかしくない場面ばかりだった。なのに僕は何もできなかった。巻き込んどいて、討魔を手伝ってくれなんて言っといて、大事な玲奈を守れもしない。僕は僕自身が情けなくて堪らない……」
 ルタはボロボロと大粒の涙を零しながら語っている。
(ルタ……)
「そんなことないよ。ルタが居たから私もエレーナも千尋ちゃんも皆が助かった。もし、ルタが居なかったら、逆に皆死んでたかもしれない。ルタは胸を張っていいよ」
 慰めてみるがルタの瞳からは涙が止まらない。
(うわぁ、なんか困ったな。泣いてるルタってただの可愛い少年にしか見えない……)
 玲奈は意を決するとベッドから立ち上がり、ルタを正面から抱きしめる。心流を込めると途端にルタの身体は光り輝き室内を照らす。
「私の心臓の音、聞こえる?」
「うん」
「貴方が守った心臓の音よ。守ってくれたのはこれで二回目。本当に感謝してるんだからね、ルタ」
 抱きしめたまましばらく心流を送り続け、ふと腕の中のルタを見ると玲奈の顔を間近で真剣に見ている。
(あっ、これって……)
 気付いたときには玲奈の方から目を閉じ、ルタの唇を受け入れる。長い口づけを終えると、ルタは玲奈を抱きしめたままゆっくりベッドに倒す。
(あれ? なんかヤバイんじゃないのコレ?)
 パジャマのボタンに手を掛けられた瞬間、玲奈は我に返る。
「ちょっと! ルタ、何調子に乗ってんの!」
 両手でルタの顔を押し返しながら抵抗する。
「何って? この状況でヤルことって一つでしょ?」
「ヤラないから!」
「そんな雰囲気だったと思ったんだけど、ごめん……」
 そう言うとルタは素直に離れる。
(た、確かに今のは私が悪いかも……)
「や、約束したでしょ? 光集束をマスターするまではあげないって」
「そっか。忘れてた」
「分かったら帰って。私も疲れてるんだから」
「うん、分かった」
 今日のルタは珍しく素直で逆に不安になる。
「あ、あのルタ!」
「なに?」
「何もしないって約束できるなら、一緒に寝てもいいよ」
「いいの?」
「ボディタッチ禁止が条件」
「了解」
 嬉しそうにベッドに入ると玲奈の方を向いてすぐに寝息をたてる。そんな子供ようなルタの寝顔に玲奈の心も温かくなり、軽くほっぺにキスをして並んで眠りについた。