そういえば……。
あの日、先生に反抗してからというもの、沖田先生の授業を憂鬱だとか、そんな風に考えることは少なくなった。
「ここには、Aの方式を使って……」
黒板に公式を書く沖田先生の背中を見つめる。
前は、この声を聞く度に泣きたくなった。
あの揺れる後ろ髪を見る度に、「どうして」と嘆いた。
視線が重ならないことに、胸が抉られるように痛んだのに…。
今は、静かな気持ちで、沖田先生を見つめられる。
それはきっと……。
「うん、もう大丈夫みたい…」
小声で返事を返すと、樹くんは、ホッとしたように、表情を和らげた。
そう、きっと私が……樹くんを好きになったからだ。
樹くんに恋したから、私は前に一歩進めたのかもしれない。
この人の優しさが、私を変えた。
「ありがとう、樹くん」
「何だ、突然」
不思議そうな顔をする樹くん。
私は、樹くんにだけにわかるようにそっと微笑んだ。
「ううん……言いたくなっただけ」
「変なヤツ」
そう言いながらも、嬉しそうに口角を上げる樹くん。
その笑みを見つめながら、やっぱりこの人が好きだ…そう確信するのだった。


