だけど、時が経つにつれて、お父さんもお母さんもいっそう忙しい生活になり、次第にその時の幸せは薄れていった。



楽しかった日のことを思い出すと、幸せの後から寂しさやむなしさが込み上げて、いつしか『忘れられたらいいのに』なんて、思うようになっていったんだ。

どうせふたりも、忘れているだろう、そう思って。



だけど、そうじゃなかった。お父さんは覚えてくれていたんだ。

あの日の思いを、時々、一瞬忘れてしまっても、写真を見る度思い出してくれていたんだろうか。



そう思うと、これまでひとりよがりに感じていた自分が、少し恥ずかしくて、情けなくて、泣き出しそうになるのをぐっと堪える。

そんな私に、新太はそっと頭を撫でてくれた。



長い指をした大きな手が、包むように触れる。

その優しさに胸がトクン、と小さく音を立てた。



「……どうして新太は、私が娘だって知ってて、お父さんには黙ってくれてるの?」

「そりゃあ、『お宅の娘うちにいますよ』なんて言ったらさすがに殴られかねないし」



その場の空気が重くならないように、新太はそう冗談めかしていって、あははと笑う。