「式は、海外で挙げたかったの。」

お姉ちゃんは、ちょっと得意げに、あ然としている私達家族の前に航空券を置いた。

大学でイタリアの文化を勉強していたお姉ちゃんは、夏休みを利用してイタリアへの短期留学を繰り返す内に、現地でたくさんの友人を作った。

その一人の家で結婚式を開かせてもらうことになったというのだ。

大きなぶどう農園を経営する彼は、なんとお城まで持っているらしい。

「古城で結婚式なんて、素敵じゃない?」

うれしそうに事後報告するお姉ちゃんと固まっている両親を見比べながら、私は、小さくため息をついた。

「ねえ、菜摘ちゃんも絶対気に入ると思うよ。近くに湖もあるんだ。」

「う、うん。楽しみ。」

とりあえず、適当に答えると、お姉ちゃんは、満足そうに微笑んだ。

「す、すみません。勝手に決めてしまって。」

それまで黙っていた柊君が、まだ口を開けたままのお父さんに頭を下げた。

「いや。柊君が、謝ることじゃないよ。どうせ、果林が、勝手に決めたことだろう。君には、本当に迷惑をかけるね。君のご両親の方は、大丈夫かい?」

柊君の言葉に覚醒したお父さんは、逆に申し訳なさそうに言った。

「ええ。ちょっと、驚いてましたけど、大丈夫です。」

「ホント。こういうことは、ちゃんと話しておかないとダメよ。」

お母さんもお姉ちゃんをたしなめたけれど、なんだかんだで、両親は、お姉ちゃんに甘い。

「じゃあ、出発は、来月の頭です。これで、私も六月の花嫁ね。」

決まったとばかりにお姉ちゃんが、拍手した。