レジーナ フィオリトゥーラ

私は、急いでそれをナフキンに包むと、男の子の手に載せた。

「ごめんね。今は、これしかないんだ。あとで、また来てくれたら、他にもあげるから、これで我慢してね。」

多分、もう少ししたら、昨日のおばさんたちも来るだろう。

見つかる前に事を穏便に済まさなくちゃ。

包みを渡して、微笑むと、男の子は、少し不思議そうな顔で私を覗き込んだ。

内心、ヒヤヒヤ。

なんだか手に汗をかいてきた。

私の笑顔を引きつってないかな。

「お姉ちゃん。」

「ん?どうしたのかな?」

何?

お願いだから、叫ばないでよ。

「お姉ちゃんは、フィオリトゥーラだね。」

「え?」

何それ?

人の名前?

誰かと間違えているの?

「私は、そんな名前じゃないわ。人違いよ。」

「ううん。僕は、分かっているよ。お姉ちゃんは、フィオリトゥーラだよ。」

男の子は、自信満々で言い切った。

その人、よっぽど私に似ているのね。

名前は、立派なのにきっとあんまり可愛くないんだな。かわいそう。

でも、否定し続けて、このまま、離してもらえないのも困る。

仕方ない。

「そうよ。私は、フィオリトゥーラよ。私、ちょっと急いでいるんだ。またゆっくり話しましょう。」

フィオリトゥーラさん、ごめんなさい。

「やっぱり。」

でも効果はあったようで、男の子は、満足そうに微笑んだ。

「本当にごめんね。また今度ね。」

「うん。またすぐに会えるよ。」

それは、無理だけど、本物のフィオリトゥーラさんに会えるよ。

手を振りながら、塩の壷を片手に台所を出ると、なんだかどっと疲れた。

でも、こうしちゃいられない。

もう誰か起きてしまうかもしれない。

慌てた私は、壷を抱えたまま、ルカの待つ部屋へと走り出した。