9月のまだ暖かさが残る風に包まれて、智輝がやってきた。




『…久しぶり!』

立ち上がり、声をかけた。

笑顔のあたしに驚いたのか、一瞬立ち止まる智輝。

「ああ…遅れてゴメン」

『うん、大丈夫』

そう言いながら、互いにベンチに腰かける。




「その子が…」

ベビーカーの中の咲幸を見て、智輝が口を開いた。

『うん、そーだよ』

「そっか…」

智輝の手が、自然と咲幸の頬に触れた。


「…女の子?」

『うん。咲幸って言うの…』

「さゆき?」

『花が咲くの“咲”に“幸せ”って書いて…咲幸』

「そっか…良い名前だな?」


良い名前って言ってもらえた事が、想像以上に嬉しかった。