「コンコン」とドアを叩く音がした。「入りたまえ。」「失礼します。」スーツを着た男が入って来た。「総理、プロジェクトの結果をまとめたものをお持ちいたしました。」「そうか。あのプロジェクトは順調か?」「はい。離婚率は5%を切り、出生率は年々増えております。それに合わせ施設も増やしております。しかし、国民からあのテストで離婚すると言われたが、離婚しなかったという声が寄せられていると報告が来ております。データベースに何か不備でもあったのでしょうか?」「そうか。それでいい。」「どういうことでしょうか?」「そのようななデータベースなどどこにも存在しない。人は良い結果を信じたい生き物だ。第3者から離婚しないと言われればそれが心の支えとなり、パートナーと困難を乗り越えようとする。離婚すると言われたカップルは、それで崩れる関係なら所詮そこまでのものだ。しかし、それを乗り越えようとするもの達も出てくる。そのカップルの絆は強い。あのデータベースは将来、離婚するかを見るものではない。」「そのカップルが続くべきかを見極め、さらに必要な物を与えるということですか。」「そういうことだ。しかし、幸せである以上、例え結果が違ったところで文句を言うものはいない。」彼は淡々と述べた。そして、「出かけるから車を出してくれ。」男はそう言うと、秘書と共に部屋を後にした。