少年に別れを告げる日

次に目を開けた時、部屋は真っ暗だった。パジャマの湿っぽさは気にならなくなっていた。

ゆっくりと布団から抜け出して電気を付けると、いつの間にかパジャマは変わっていた。伊織が着替えさせてくれている間も気付かずに寝ていたらしい。

立っていると足元がふらふらした。くうっとお腹が小さな音を立てる。考えてみれば、昨日の夜も食欲がなくてほとんど食べていなかった。

のろのろと部屋から出て居間に向かう。暑くも寒くもないから、多分熱は下がったのだろうと思った。

「美織!もう大丈夫なのか?」

突然現れた美織を見て、伊織は目を見開く。美織は頷いて台所に向かった。

「健ちゃんがゼリー買って来てくれたって言ってたから」
「食欲が出てきたなら何よりだ」

伊織が安心したように笑うから美織も微笑んだ。冷蔵庫には蜜柑がたくさん入ったゼリーがあった。美織が小さい時から好んで食べているゼリー。

「温めるだけのおかゆとかもあるけど」
「それはまだいいや。明日食べるね」
「わかった」

美織が体調を崩すのはよくあることとはいえ、やっぱり心配なのか、伊織は美織の側を離れようとしなかった。

「いつもごめんね、伊織」
「ん?何が?」
「迷惑かけてばっかりで」

体調を崩すのはいつも美織。看病してもらったことはあっても、伊織の看病をした記憶はなかった。

「迷惑だなんて思わないよ」
「でも、ごめん」

もっと幼い頃は病弱で入退院を繰り返していた。その度に母は病院に泊まり込んだ。伊織から母を奪ってしまっているようで、美織は苦しかった。

最終的には、永遠に伊織から母を奪ってしまった。どんなに美織は悪くないと言われても、それを素直に受け入れることができなかった。どこかで思ってしまう。自分がいなければ……と。

「美織」
「いたっ!」

突然のでこぴん。思わず声を上げると、伊織がいたずらっぽく笑った。

「難しい顔しない。治るものも治らなくなるだろ」
「はーい」

額をさすりながら、美織は返事をする。

わかっている。伊織は責めるどころか、本気で美織を心配しているし、大切に思っている。わかっていても、悩んでしまう自分が美織は嫌いだった。