少年に別れを告げる日

伊織は目を覚ました。あと5分で鳴り出すアラームを止め、布団から出る。

大きく伸びをしてから障子を開けると、光が目に飛び込んでくる。9月になったとはいえ、まだ暑そうだ。

伊織は壁に掛けてある制服に目を移した。少し前まで学ランが掛けてあった場所にはセーラー服がある。3日前に届いたばかりの真新しいセーラー服だ。

今日から2学期が始まる。再び当主になることが決まってから、かなり忙しかったが、不思議と疲労感はない。当主の仕事と夏休みの宿題に追われていたが、充実していた。

「さて、走るか」

もう走り慣れた道を軽く走り、道場で剣を振る。伊織の朝の日課だ。

今日くらいは早く起きるんじゃないかと思っていた美織はまだ夢の中にいた。心身共に成長した美織だが、朝起きられないのは相変わらずだ。

伊織は美織を起こさないよう静かに外に出ると、準備体操をして走り出した。

***

美織は伊織のセーラー服姿を見て嬉しそうだった。姉妹だねと当たり前のことを言う。そろそろ出ようかと話していたら、扉を叩く音がした。

転入初日に健一が様子を見に来たことを思い出す。単なる新学期の始まりだというのに、今日も来たのだろうか。

「はい、どちらさまですか?」
「おはよー」

美織は聞き慣れた声に驚いて、慌てて扉を開けた。予想通り紫乃が立っていて、その後ろには昴と湊もいる。

「ちょうど朝練もなかったから、来ちゃった。一緒に学校行こう」


たわいもない話をして笑い合いながら歩く。こんな日が来るとは思わなかった。

「なんだか幸せだね、伊織」

弾むような声で美織が言う。美織がこれほど明るく笑うようになるなんて、転入する前は想像もできなかった。

「ああ、幸せだ」

伊織も微笑んで応える。伊織がこんなに柔らかな表情を見せるようになるなんて、転入する前は想像もできなかった。


これからも辛いことはたくさんあるだろうし、また悩むこともあるだろう。

それでも、苦しんでも悩んでも、最後はちゃんと乗り越えられる気がした。

半年と少しの間に起こったたくさんの出来事は、確かに伊織と美織を強くさせたのだから。