少年に別れを告げる日

龍虎の目が鋭く光った。伊織がまとう空気が、この前とは明らかに違うのを、龍虎は肌で感じていた。隙がない。

伊織が剣を構える。けっこうな人数が集まっているというのに、道場は静まり返っていた。

伊織も龍虎も動こうとしなかった。否、動けなかった。動けば隙ができる。しかし、動かなければ勝負はつかない。

伊織は一気に距離をつめた。大きな声を上げて斬り込む。龍虎は表情を変えることなくそれをかわした。動きは伊織より遅いが、隙が全くない。

伊織に剣術を叩き込んだのは龍虎だ。癖も弱いところもわかっている。

かわされて体勢を崩した伊織だが、すぐに立て直す。一瞬の隙を逃さなかった龍虎の剣を伊織はぎりぎりでかわした。剣先がわずかに当たったのか、髪が数本ハラリと落ちた。

龍虎は攻撃の手を緩めない。刀と刀がぶつかる音が道場に響いた。年齢からは想像もできない力強さ。伊織は力比べでは不利だと判断し、後ろに跳んだ。

防ぐばかりでは勝てないが、攻め急いではいけない。伊織は自分に言い聞かせる。動揺すれば、隙ができる。

「っあ!」

防ぎきれずに体が飛んだ。壁に背をぶつけてしまう。そんな光景を目にしたことがなかったであろうクラスメイトからは、悲鳴が上がった。

「覚悟はその程度か」

伊織は立ち上がって間合いを取る。背中は痛んだが、恐怖も焦りもなかった。強い相手と剣を交える喜びさえ感じていた。

斬撃を繰り出すが、龍虎はそれを軽く受け流していく。まだまだ伊織は未熟だ。龍虎から見れば、ほんの子供にすぎないのかもしれない。それでも、負けるわけにはいかなかった。

「僕はもう迷わない!!」

伊織の強みは素早さだ。それは男にだって負けない。一瞬反応が遅れた龍虎。伊織は剣を振り下ろした。全てを込めた重い重い一撃だった。

キィィィンと一際大きな音が響いた。