少年に別れを告げる日

美織は緊張した面持ちで道場の前を行ったり来たりしていた。嘘をついていたことを謝って、伊織が守りたかったものを知ってほしいと頼んで回った。
美織を責めるクラスメイトはいなかったが、今日どのくらいの人数が集まるかはわからなかった。

「少し落ち着いたらどうだ」

道場から出てきた健一が苦笑する。

「今になって、伊織が怒らないかも心配になってきた」

伊織にはクラスメイトを呼んだことは黙っていた。伊織と龍虎の勝負を見届けてくれる人を呼ぶとは伝えてあるが、おそらく門下生を呼んだと思っているだろう。
健一が門下生にも声をかけたため、門下生も来るだろうが、クラスメイトも来る。伊織の反応が不安になった。

「美織ちゃん」

紫乃の声がして振り返ると、紫乃の後ろにはクラスの女子が3人いた。美織は少し安心したように微笑む。

「来てくれてありがとう」

***

「かなり集まったな」

昴が驚いたように呟く。クラスメイトの半数以上が道場まで来てくれていた。門下生もほとんどが来てくれている。

「伊織」

伊織が入ってくる。集まっていた人数に驚くようなそぶりを見せたものの、すぐに冷静さを取り戻した。

「あの、言ってなかったんだけど……」

伊織はゆっくりと首を振って、美織の言葉を止めた。

「なんとなく、わかってたから。
……改めてみんなに謝りたい。ずっと嘘をついていて、ごめん。
僕らの父は鷹栖流の当主だったけど、僕らが6歳の時に事故で亡くなった。僕は父の跡を継ぎたかったけど、それには、男じゃなきゃいけなかった」

クラスメイトと門下生、一人一人の顔を見ながら、伊織はゆっくりと言葉を選ぶようにして話す。

「どうしても、鷹栖流を守りたかった。女である自分を、捨ててでも」

美織は頑張れという気持ちを込めて伊織を見つめていた。視線に気付いた伊織がこくりと頷く。

「でも、やっと、それじゃだめなんだって気付いた。どう頑張っても、僕は女だ」

いくら努力したって、男にはなれない。偽り続けていても、何も変わらない。

「僕が出した答えを見てほしい」

伊織は真っ直ぐに前を見つめてそう言った。門下生が集まっている場所に視線を移し、数歩そちらに近付く。

「当主として、情けない姿を見せたこと、本当に申し訳なく思う。でも、僕はこれからも剣術を続けたい。当主としてでなくていいから、みんなと一緒に」

白い道着をまとい、背筋を伸ばした伊織は凛としていた。そこには性別を越えた美しさがある。
クラスメイトは言葉を失って、伊織を見つめていた。教室にいる時の伊織とは明らかに雰囲気が違う。
当主のことも、剣術のことも、よくわからないかもしれないが、伊織の強い気持ちだけはしっかり届いていた。