少年に別れを告げる日

手際よく野菜を切っていた手を止め、美織はため息をついた。伊織に剣術を続けてほしいと言ってもいいのか悩んでいた。

久しぶりに道場に入った伊織の嬉しそうな顔。あんな表情、しばらく目にしていなかった。

「美織、手伝おうか」
「じゃあ、野菜を洗ってくれる?」
「わかった」

簡単な作業を頼まれ、少し不満そうな顔をしながらも、伊織は出してある野菜を洗い始める。

「美織」
「伊織」

ちょうど声が重なって、2人は顔を見合わせた。

「伊織からいいよ」
「いいよ、言いたいことあるんだろ?」
「伊織だってあるんでしょ?」

伊織は美織から目をそらすと、続けたいと呟いた。

「え?」
「鷹栖流から離れるなんて嫌だ。ちゃんと悩んで決めたはずだった。けど、逢沢さんと話して、和人くんと話して……やっぱりやめたくないと思った。
鷹栖流のことを考えれば、僕はやめるべきかもしれないけど、自分の気持ちに正直になれば、僕は続けたい」
「私も続けてほしい」

今度は伊織がえ?と言う番だった。

「伊織が剣術をやめるって言った時、本当にびっくりした。伊織がやめるなんて思わなかった。やめるって言ったけど、伊織は吹っ切れてる感じじゃなくて、寂しそうだったし。続けるべきだよ」

美織は笑顔で言う。

「和人くんのお母さん、剣道をやってて、師範は女性だったんだって。女の子だからって、諦める必要ないよ」
「……うん」

伊織は大きく頷いた。龍虎に再び認めてもらうのは簡単なことではない。それでも、覚悟は決まった。

答えは剣で見せる。龍虎に挑むしかない。言葉をどれだけ重ねても、受け入れてはもらえないだろう。そして、もう負けることは許されない。

「きっと伊織は自分が女の子だって認めることができれば、もっと強くなれるよ。弱点を隠すのは、弱い人がやること」

紫乃の言葉を思い出す。もう隠さないし、迷わない。幼い頃と同じように、そのままの自分で剣術と向き合いたい。そうすればきっと、強くなれるはずだ。