学校が始まって約1週間。教科書が届いたから昼休みに取りに来るよう言われた伊織達は、職員室で教科書類を受け取って教室に向かっていた。教科書は予想以上に多かった。
教科書を抱えた伊織は後ろを歩く美織を気にしていた。
「美織、重くない?」
「うん」
そう返事をしたそばから、美織はバランスを崩してふらついた。
「危ない」
漫画のようなタイミングで美織を支えたのは湊だった。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。先生も、もっと運びやすいようにしてくれればいいのにな」
そう言いながら、湊は美織の手から教科書の半分以上を取った。
「え、あ、悪いよ!」
慌てて取り戻そうとする美織を湊は笑顔で止める。
「俺にとっては軽いもんだから気にしない、気にしない」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
確かに湊は軽々と持っているように見えたし、無理に持ってまたバランスを崩してしまったら、迷惑をかけることになる。美織は残った教科書を抱えなおした。
「助かるよ、湊」
「女の子に優しくすんのは俺のポリシーだから」
照れもせずにそんな言葉を口に出す湊に呆れると同時に、伊織の胸の中で嫌な感情が渦巻く。どうしようもない暗い気持ちだ。
「女の子……か」
少しでも吐き出さないとやり過ごせそうになかった。ため息と一緒に吐き出した小さな呟きは誰にも届くことなく消えた。
***
自分の部屋に入った途端に伊織は学ランを脱ぎ捨てた。そのまま仰向けに倒れ込む。頭の片隅で、この姿を美織が見たら怒るだろうなと考える。制服がしわになってしまうと眉をひそめそうだ。そういうことに美織はうるさい。
「僕はなんなんだろう」
誰に言うでもなく呟く。ゆるゆると起き上がった伊織は学ランをハンガーに掛ける。学ランは好きになれなかった。学ランだけじゃない。制服は好きになれない。
道着に着替えようと思った。白い道着に着替えて刀を持てば、自分が何者かなんて考えずに済む。その時の伊織は間違いなく剣士だと言い切ることができるから。
自分の決断を後悔してはいない。決めたのは自分だから、両親や美織を責める気持ちは全くない。決断した時は幼かったからと言い訳するつもりもない。13歳の誕生日を迎えた日に祖父から改めて意志を問われた。
「これでよかったんだ。守りたいものを守るには、これしかないんだ」
守りたいという気持ちはずっと変わっていない。大きな決断をした6歳の時からずっとだ。
ただ、身体の変化と共に、心も少しずつ変化していることは認めざるをえなかった。いつまでこのままでいられるのかという不安も少しずつ大きくなっていた。
教科書を抱えた伊織は後ろを歩く美織を気にしていた。
「美織、重くない?」
「うん」
そう返事をしたそばから、美織はバランスを崩してふらついた。
「危ない」
漫画のようなタイミングで美織を支えたのは湊だった。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。先生も、もっと運びやすいようにしてくれればいいのにな」
そう言いながら、湊は美織の手から教科書の半分以上を取った。
「え、あ、悪いよ!」
慌てて取り戻そうとする美織を湊は笑顔で止める。
「俺にとっては軽いもんだから気にしない、気にしない」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
確かに湊は軽々と持っているように見えたし、無理に持ってまたバランスを崩してしまったら、迷惑をかけることになる。美織は残った教科書を抱えなおした。
「助かるよ、湊」
「女の子に優しくすんのは俺のポリシーだから」
照れもせずにそんな言葉を口に出す湊に呆れると同時に、伊織の胸の中で嫌な感情が渦巻く。どうしようもない暗い気持ちだ。
「女の子……か」
少しでも吐き出さないとやり過ごせそうになかった。ため息と一緒に吐き出した小さな呟きは誰にも届くことなく消えた。
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自分の部屋に入った途端に伊織は学ランを脱ぎ捨てた。そのまま仰向けに倒れ込む。頭の片隅で、この姿を美織が見たら怒るだろうなと考える。制服がしわになってしまうと眉をひそめそうだ。そういうことに美織はうるさい。
「僕はなんなんだろう」
誰に言うでもなく呟く。ゆるゆると起き上がった伊織は学ランをハンガーに掛ける。学ランは好きになれなかった。学ランだけじゃない。制服は好きになれない。
道着に着替えようと思った。白い道着に着替えて刀を持てば、自分が何者かなんて考えずに済む。その時の伊織は間違いなく剣士だと言い切ることができるから。
自分の決断を後悔してはいない。決めたのは自分だから、両親や美織を責める気持ちは全くない。決断した時は幼かったからと言い訳するつもりもない。13歳の誕生日を迎えた日に祖父から改めて意志を問われた。
「これでよかったんだ。守りたいものを守るには、これしかないんだ」
守りたいという気持ちはずっと変わっていない。大きな決断をした6歳の時からずっとだ。
ただ、身体の変化と共に、心も少しずつ変化していることは認めざるをえなかった。いつまでこのままでいられるのかという不安も少しずつ大きくなっていた。

