少年野球チームに所属していた紫乃はチームメイトと一緒に近くのシニアチームに進むものだと思っていた。
監督から「あそこのチームに女子は入れないと思う」と言われた時は本当に驚いた。仮に入れたとしても、これから男子との差は開く一方だと諭された。
親からも兄からも反対された。中学でソフトボールをやればいいと言われた。
予想はしていたが、中学の野球部に女子はいなかった。一応見学したソフトボールは、やはり野球とは別物だった。
シニアに進むことは諦めたが、野球を諦めきれなかった紫乃は一度でもいいから、中学で野球をやりたかったのだ。
男のふりをして体験入部してみると、ばれなかったどころか、先輩や顧問の先生に褒められた。経験があるのかと聞かれた。嬉しかったが、同時に悔しさもあった。男なら評価されるのに、女は入部すらできないのかと。
体験入部の時間はあっという間に終わった。「実は女なんです」と打ち明けても、入部は許してもらえるのだろうか。そう考えながら歩いていたら、呼び止められた。
「紫乃!」
「……大塚(おおつか)さん」
振り向いた瞬間、ごまかせないと思った。同じ少年野球チームだった大塚遥希(はるき)がいた。部活中もばれるんじゃないかと心配していたが、やはりばれていた。
「バカみたいなことしてんじゃねぇぞ!」
遥希に怒鳴られたのは初めてだった。自主練に付き合ってくれたり、フォームのアドバイスをくれたり、紫乃を気にかけてくれる、口は悪いけど優しい先輩だった。
「やってみたかっただけなんです。もう、諦めます」
中学の野球部は男子のものなんだと思った。遥希がここまで怒るのだから、諦めるしかない。
「はあっ!?そういう意味じゃねえよ!お前はそんな奴だったのかって言ってんの。入部したいってそのままぶつかってこいよ!兄貴の体操着まで借りて何やってんだよ!」
「だって、少年野球とは違うじゃないですか!私はシニアに行きたかったけど、ダメだって言われた!ソフトボールにしろって言われた!女だっていう理由だけでですよ!」
言いながら涙が出てきた。どうしてだろう。ただ、好きなことを続けたいだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。
「……がっかりだ。隠してどうなるんだよ?男になれるのか!?女だからもう野球はできないと思ってるなら、さっさとやめろ!」
「大塚さんにはわかんないんだよ!バカ!私の気持ちも知らないで!!」
泣きながら走った。遥希の顔を見ていたくなかった。でも、納得する部分もあった。本当の自分を隠すのは逃げているだけだ。
男のふりをしてまで野球をやりたいと思うなら、最初からそのままの自分でぶつかればよかったのだ。男のふりをして認められても、何も変わらない。
「先生っ!」
泣きながら走ってきた紫乃を見て、職員室に戻ろうとしていた野球部の顧問はぎょっとした。
「すみません、私は女なんです!でも、野球がやりたい!ソフトじゃダメなんです!」
カツラを取って頭を下げる。ずっと頭を下げていたら、笑い声が聞こえて慌てて顔を上げた。
「なんだ、自分から言いに来たのか」
「……え?」
「佑磨(ゆうま)の妹だろ?よく似てる。佑磨は野球部じゃなかったが、授業は受け持っていたからな、すぐわかった」
兄の佑磨はシニアに進んだから、部活には入っていなかった。ばれないと思っていたが、考えが浅かったらしい。
「別に女子は入れないって規則はない。やる気があるなら男女問わず歓迎だ。実力があるなら、尚更だ」
「にゅ、入部してもいいんですか!?」
「なんだ、だめだと思ってたのか?中学野球は女子も公式戦に出れることになってるしな」
先輩や同級生から何か言われると思っていたが、紫乃は案外普通に受け入れられた。珍しいと言われることはあったが、嫌な感じではなかった。
事前に遥希が部員に紫乃のことを話してくれていたことを知ったのは、入部してからずいぶんたってからのことだった。
遥希にはバカと言ってしまったことを謝り、遥希も自分も言いすぎたと言ってくれた。今では昔と同じように自主練に付き合ってくれるようになった。
監督から「あそこのチームに女子は入れないと思う」と言われた時は本当に驚いた。仮に入れたとしても、これから男子との差は開く一方だと諭された。
親からも兄からも反対された。中学でソフトボールをやればいいと言われた。
予想はしていたが、中学の野球部に女子はいなかった。一応見学したソフトボールは、やはり野球とは別物だった。
シニアに進むことは諦めたが、野球を諦めきれなかった紫乃は一度でもいいから、中学で野球をやりたかったのだ。
男のふりをして体験入部してみると、ばれなかったどころか、先輩や顧問の先生に褒められた。経験があるのかと聞かれた。嬉しかったが、同時に悔しさもあった。男なら評価されるのに、女は入部すらできないのかと。
体験入部の時間はあっという間に終わった。「実は女なんです」と打ち明けても、入部は許してもらえるのだろうか。そう考えながら歩いていたら、呼び止められた。
「紫乃!」
「……大塚(おおつか)さん」
振り向いた瞬間、ごまかせないと思った。同じ少年野球チームだった大塚遥希(はるき)がいた。部活中もばれるんじゃないかと心配していたが、やはりばれていた。
「バカみたいなことしてんじゃねぇぞ!」
遥希に怒鳴られたのは初めてだった。自主練に付き合ってくれたり、フォームのアドバイスをくれたり、紫乃を気にかけてくれる、口は悪いけど優しい先輩だった。
「やってみたかっただけなんです。もう、諦めます」
中学の野球部は男子のものなんだと思った。遥希がここまで怒るのだから、諦めるしかない。
「はあっ!?そういう意味じゃねえよ!お前はそんな奴だったのかって言ってんの。入部したいってそのままぶつかってこいよ!兄貴の体操着まで借りて何やってんだよ!」
「だって、少年野球とは違うじゃないですか!私はシニアに行きたかったけど、ダメだって言われた!ソフトボールにしろって言われた!女だっていう理由だけでですよ!」
言いながら涙が出てきた。どうしてだろう。ただ、好きなことを続けたいだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。
「……がっかりだ。隠してどうなるんだよ?男になれるのか!?女だからもう野球はできないと思ってるなら、さっさとやめろ!」
「大塚さんにはわかんないんだよ!バカ!私の気持ちも知らないで!!」
泣きながら走った。遥希の顔を見ていたくなかった。でも、納得する部分もあった。本当の自分を隠すのは逃げているだけだ。
男のふりをしてまで野球をやりたいと思うなら、最初からそのままの自分でぶつかればよかったのだ。男のふりをして認められても、何も変わらない。
「先生っ!」
泣きながら走ってきた紫乃を見て、職員室に戻ろうとしていた野球部の顧問はぎょっとした。
「すみません、私は女なんです!でも、野球がやりたい!ソフトじゃダメなんです!」
カツラを取って頭を下げる。ずっと頭を下げていたら、笑い声が聞こえて慌てて顔を上げた。
「なんだ、自分から言いに来たのか」
「……え?」
「佑磨(ゆうま)の妹だろ?よく似てる。佑磨は野球部じゃなかったが、授業は受け持っていたからな、すぐわかった」
兄の佑磨はシニアに進んだから、部活には入っていなかった。ばれないと思っていたが、考えが浅かったらしい。
「別に女子は入れないって規則はない。やる気があるなら男女問わず歓迎だ。実力があるなら、尚更だ」
「にゅ、入部してもいいんですか!?」
「なんだ、だめだと思ってたのか?中学野球は女子も公式戦に出れることになってるしな」
先輩や同級生から何か言われると思っていたが、紫乃は案外普通に受け入れられた。珍しいと言われることはあったが、嫌な感じではなかった。
事前に遥希が部員に紫乃のことを話してくれていたことを知ったのは、入部してからずいぶんたってからのことだった。
遥希にはバカと言ってしまったことを謝り、遥希も自分も言いすぎたと言ってくれた。今では昔と同じように自主練に付き合ってくれるようになった。

