少年に別れを告げる日

結局、湊以外のクラスメイトと話せないまま、下校の時間になってしまった。覚悟はしていたが、さすがに落ち込んでしまう。伊織はため息をついた。

夏休み前まで男子として過ごしていた伊織が突然女子の制服を着てきたという噂は他のクラスにも広まっていた。嘘も混じった面白おかしい噂。

「だから、あまり目立ちたくなかったのに」

ぽつりと呟く。湊に伊織は女子から人気があると言われたことを思い出した。自分に憧れていて、女だったと知り、ショックを受けた人がいるのなら、申し訳ないとは思う。でも、伊織にはどうすることもできない。伊織は生まれた時から女だった。

美織にどう報告すればいいのだろう。湊のおかげでずいぶん落ち着いて、明るい表情も増えたのに、落ち込ませるようなことはしたくなかった。

「転校、か……」

できることならしたくなかったが、それも考えなくてはいけないのかもしれない。健一にも無理して美浜に通い続けることないと言われていた。新しい環境でやり直す方がいいんじゃないかと。

「転校するの?」

いつの間にか目の前には紫乃が立っていた。教室にはもうほとんど人がいない。

「まだ決めたわけじゃない。転校したいとは思わないし」

紫乃は少し驚いたように伊織を見た。以前より距離を感じたが、それでも話しかけてきてくれたのが、伊織は嬉しかった。

「こんな状況でも?」
「仕方がないよ、僕の責任だ。誰だって、男だと思ってたクラスメイトが女子の制服を着てきたら、訝しく思うだろ」
「……話、聞かせてくれる?」
「ああ、もちろん。話せないこともあるかもしれないけど、できる限り質問には答えるよ」

紫乃はまだ硬い表情をしていたが、伊織は話を聞いてもらえることにほっとした。

「近くに小さな公園があるから、そこでもいいかな。教室だと話しにくいよね」
「わかった」