少年に別れを告げる日

「何あれ」
「やっぱり」
「ほんとに?」

遠目に見てもわかるくらいに、教室の雰囲気がおかしかった。湊は嫌な予感がして早足で教室に向かう。久しぶりの学校に浮き足立っているという感じではない。

「おはよう」

湊に気付いたクラスメイトは気まずそうに目をそらした。

「なんかあったの?」
「……見ればわかるよ」

湊は教室に入った。クラスメイトの多くが1人に注目していた。セーラー服を着た後ろ姿。その席は伊織の席だった。

伊織が今日来るのは聞いていた。美織は無理そうだということも聞いていた。でも、まさか伊織が女子の制服で登校してくるとは思わなかった。

さっきクラスメイトが気まずそうにしていたのは、伊織が女なんじゃないかと騒ぎになった時に、湊がかばったからだろう。

「伊織」

湊に気付いた伊織は顔を上げたが、何も言わずに首を振った。

「ちょっと、こっち」

湊は伊織の腕をつかんで引っ張った。前にも同じことがあったなと思い返しながら、伊織を教室から連れ出す。

「湊、僕は大丈夫だよ。こんなことして、湊まで悪く言われたら困る」
「俺も知った上で黙ってたんだから、同罪だよ」
「大丈夫なんだよ。悪く言われたとしても、それを受け止める覚悟はできてる。僕が謝って済むなら、みんなが納得してくれるまで謝る」

伊織は当たり前のことのように言う。湊だってわかっていた。何の覚悟もなく女子の制服を着てくるわけがない。クラスメイトの反応くらい予想できただろう。

「いきなり女子の制服で来るとは思わなかった」
「美織のを借りたんだ。少し小さいけど、1日だけだから。2学期の前には制服が届くことになってる」
「それなら2学期からでも……」
「美織にも言われた。でも、どうせいつかは女だってみんなに言わなきゃいけないんだから、早い方がいい。この制服を着れば一発だろ?」
「確かに一発かもしれないけどさ」

伊織は小さく笑って肩をすくめた。

「説明したくても、みんな遠巻きに見てるだけだから、無理そうなんだけどな」

美織も登校するなら、こんな無茶なことはしない。伊織が平気でも、その様子を見ている美織の方が落ち込みそうだ。

美織が学校に来れるように、今の雰囲気をどうにかしたいのだが、正直どうすればいいのかわからなかった。

「話は終わり?なら、戻るよ」
「伊織……」

湊はそれ以上何も言えなかった。