少年に別れを告げる日

「初めまして、湊くんと同じく学級委員の逢沢紫乃(あいざわ しの)です」

長い髪を三つ編みにしている紫乃はイメージ通りの優等生という感じだ。湊はにっこり笑って紫乃を紹介する。

「見た目通り、成績もトップクラス。真面目な話は紫乃ちゃんに聞いた方が確実かも」
「ちょっと、湊くん!まあ、何か困ったことがあれば言って。なるべく力になれるように頑張るから」
「心強いよ、ありがとう」
「お願いします」
「とりあえず、学校の案内はしとかないとな」
「あー、ごめんなさい。私、これから用事があるから、案内は湊くんに任せていい?」
「りょーかい。じゃ、行こうか」

湊は簡単に説明をしながら廊下を進んでいく。授業で使う特別教室や食堂、購買など、私立だからか伊織達が通っていた中学にはなかった施設もある。

「そういえば、湊も双子だって言ってたけど、もう1人は野球部?」
「なんだ、会ったの?そっくりだろ?」
「ああ、今朝走ってる途中で……」
「お、噂をすれば!昴(すばる)!」

向こうから歩いてくるのは湊とよく似た少年。背丈もほとんど同じだ。

「湊?あっ!朝の……」

伊織に気付いた昴は目を丸くした。

「まさかこんなとこで会うとは思わなかったよ。僕は鷹栖伊織、こっちは双子の妹、美織」
「俺は槙原昴。ちなみに俺が兄」
「にしても、伊織と美織ちゃんも似てるよなー。男女って二卵性の双子だろ?俺らは一卵性だから似てて当然だけど」
「よく言われるよ」
「伊織、可愛い顔してるからなぁ」

伊織の顔をじっと見る湊。こういうことには慣れているが、やはり居心地の悪さはある。伊織はさりげなく目を逸らした。

「褒め言葉に聞こえない」
「あー、そういうの気にするタイプだった?」
「あんまからかうなよ」

昴が呆れたように言う。その様子を見る限り、いつものことなのだろう。

「もちろん美織ちゃんも可愛いよ。かなりタイプ」
「え、えっと……」

反応に困った美織は視線をさまよわせてから、助けを求めるように伊織を見た。

「うん、その反応も可愛い。自信満々の子よりも、守ってあげたくなる子が好きなんだよね」
「こいつ、いつもこんなんだから、本気にしなくていいから」
「俺が軽い奴みたいじゃん!」
「その通りだろ!」

口調こそ怒っているが、2人共顔は笑っていた。性格は違っても仲の良い兄弟なんだなと伊織は感じた。

「そういや、伊織は何やってるんだ?」

昴が思い出したように口を開いた。質問の意図がわからずに、伊織がえ?と昴を見る。

「手にタコできてるから、スポーツか何かやってんだろ?」
「マジ?気付かなかった」

湊が自然な感じで伊織の手を取った。一瞬動きが止まる。左手にはタコができていたが、全体としては想像していたよりも、小さく柔らかい手だった。

「左だけか。剣道?」
「へえ、よく知ってるな。やってる人間ならわかるだろうけど……」
「剣道は小学生の時に少しやってたから、なんとなくな。今はサッカー。あ、部活はどうすんの?剣道部?」

伊織は静かに首を横に振った。部活への所属は義務ではないということは確認済みだった。剣道と剣術は違う。

「僕がやってるのは剣術なんだ」
「剣術?」

昴と湊が同じ表情で伊織を見た。剣道と何が違うんだと言いたげだ。伊織は苦笑して全然違うよと呟いた。

「ものすごく乱暴に言ってしまえば、剣術はなんでもありなんだ。剣道は小手、面、胴しか狙わないだろ?それに僕の流派は竹刀じゃなくて、日本刀だ」

日本刀を使うことに驚いたのか、昴はぽかんとしている。

普通の人にとって日本刀は馴染みのないものだろう。見たことがあるとしても、芸術品としてかもしれない。歴史上有名な日本刀はたくさんある。

「僕の話はもういいよ。そんなことより、学校案内の途中だろ」
「そうだった!えーっと、あとは職員室と保健室と体育館か」

伊織は視線を感じて振り向いた。どこか不安そうな顔をした美織と目が合う。

「美織?」

美織は小さく首を左右に振ってなんでもないよと言うだけだった。