少年に別れを告げる日

「これからは自由に、か」

伊織はぽつりと呟いた。真っ白な部屋。病院のにおい。自分とは無縁だと思っていた場所だ。しばらく落ち着けるようにという配慮らしいが、逆に落ち着かない。

見舞いに来た龍虎が「鷹栖流から離れて、これからは自由に暮らしなさい」と言った。あれほど厳しかった龍虎が穏やかな声を出した。

伊織にはそれが苦しかった。もう関係ないと突き放されたように感じた。最後まで自分の責任を果たしたいのに、それすら許されない。自分は必要ないのかと龍虎に問いたかった。

「僕にはもう、何もない」

鷹栖流を守るためにずっと頑張ってきた。辛いこともあったが、もう当主は任せられないと言われた時の辛さに比べれば、今までの辛さなんて何でもなかった。

胸にぽっかりと穴が開いてしまったようだ。自分はこれから何のために生きていけばいいのだろう。

わからなくても、進むしかないのだ。伊織はこれから女として生きていくしかない。当主でもなんでもない、普通の中学生の女の子として。

性別を偽る必要はなくなったのに、全く嬉しくなかった。