美織はぼんやりと天井を見上げていた。起きているのか、眠っているのかわからないような状態だった。熱のせいか頭はぼんやりしている。
しかし、頭が重いのと体がだるいのは、眠りすぎもあるかもしれない。寝すぎてしまった時の気だるさに似ている。
「伊織……」
このまま横になっていると、また眠りに落ちてしまいそうだ。美織は体を起こして時計を見た。
「おじいさま……」
龍虎はもう来ているかもしれない。布団を抜け出して着替えを済ませた美織はおぼつかない足取りで部屋を出た。
家には人の気配がなかったので、そのまま玄関に向かう。伊織は大丈夫だろうかという不安が頭の大半を占めていた。
「美織ちゃん!?」
外に出たところで、湊と昴に出くわした。ふらふらして明らかに具合が悪そうな美織を見て、湊が怒ったように何やってるのと言った。
「伊織から聞いてるの?」
「え、何を?休めって言ったのは俺だけど、大丈夫かなと思って様子見に来たんだよ」
「で、鷹栖はどこに行く気?」
「今日、おじいさまが来るから、道場に行かなきゃ」
「なんで道場?」
「伊織が、おじいさまと試合……ではないかもしれないけど、打ち合うみたいで」
龍虎に負けてしまったら、そうでなくとも実力がないと判断されたら、伊織はどうなってしまうのだろうか。
「よくわかんないけど、とりあえず行ってみるか」
「美織ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、見に行かなきゃ」
ふらふらしながらも、美織ははっきりと頷いた。
***
「健ちゃん」
「来たのか、もうすぐ始まる。あれ、そいつらは?」
「湊くんと昴くん。えっと、従兄の健ちゃん……蓮見健一さん、大学生」
「はじめまして。ここにいても大丈夫ですか?」
「おお、伊織達の友達だろ?何度か話は聞いてる。ま、こんな雰囲気だけど、それでよければ」
健一は周囲を見て、肩をすくめてみせた。空気がはりつめている。緊張した面持ちで座っている門下生達の前に、伊織と龍虎が現れる。
礼をした2人は一度距離を取る。手には木刀があった。伊織がじりじりと龍虎に近づいていく。それまで動かずにいた龍虎が一気に距離をつめて、斬り込む。伊織はそれを上手くかわす。動きの速さは伊織が上だ。
伊織が踏み込んで、声を上げて木刀を振るう。木刀と木刀がぶつかる鈍い音がした。龍虎に弾かれた伊織は、また距離を取ろうとしたが、龍虎は一瞬の隙を逃さなかった。
「伊織っ!」
健一が叫んだ。ぴたりと動きを止めた龍虎と、脇腹を押さえて座り込んだ伊織。昴達は状況を理解することができなかった。
「もう任せてはおけない。伊織、自分の弱さがわかるか?」
伊織は苦しそうに顔を歪めたまま、龍虎を見上げた。
「今の伊織にとって、女であることは弱さでしかない」
静かに告げた龍虎。門下生達が驚いたように伊織を見た。伊織が女であることは、もちろん誰も知らなかった。
「龍虎様っ」
伊織が悲鳴のような声を上げた。やっと築いた信頼関係が壊れてしまう。若すぎる当主を受け入れてもらうのにも、かなり苦労したというのに。
焦った声を出すことが、女だと認めることになるとわかっていても、冷静ではいられなかった。
「おじいさま!お願いです、やめてください!」
懇願する美織の声が聞こえた気がした。ふうっと意識が遠のく。
ああ、頑張ったけど、だめだった。
涙が一筋、伊織の頬を伝って落ちた。
しかし、頭が重いのと体がだるいのは、眠りすぎもあるかもしれない。寝すぎてしまった時の気だるさに似ている。
「伊織……」
このまま横になっていると、また眠りに落ちてしまいそうだ。美織は体を起こして時計を見た。
「おじいさま……」
龍虎はもう来ているかもしれない。布団を抜け出して着替えを済ませた美織はおぼつかない足取りで部屋を出た。
家には人の気配がなかったので、そのまま玄関に向かう。伊織は大丈夫だろうかという不安が頭の大半を占めていた。
「美織ちゃん!?」
外に出たところで、湊と昴に出くわした。ふらふらして明らかに具合が悪そうな美織を見て、湊が怒ったように何やってるのと言った。
「伊織から聞いてるの?」
「え、何を?休めって言ったのは俺だけど、大丈夫かなと思って様子見に来たんだよ」
「で、鷹栖はどこに行く気?」
「今日、おじいさまが来るから、道場に行かなきゃ」
「なんで道場?」
「伊織が、おじいさまと試合……ではないかもしれないけど、打ち合うみたいで」
龍虎に負けてしまったら、そうでなくとも実力がないと判断されたら、伊織はどうなってしまうのだろうか。
「よくわかんないけど、とりあえず行ってみるか」
「美織ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、見に行かなきゃ」
ふらふらしながらも、美織ははっきりと頷いた。
***
「健ちゃん」
「来たのか、もうすぐ始まる。あれ、そいつらは?」
「湊くんと昴くん。えっと、従兄の健ちゃん……蓮見健一さん、大学生」
「はじめまして。ここにいても大丈夫ですか?」
「おお、伊織達の友達だろ?何度か話は聞いてる。ま、こんな雰囲気だけど、それでよければ」
健一は周囲を見て、肩をすくめてみせた。空気がはりつめている。緊張した面持ちで座っている門下生達の前に、伊織と龍虎が現れる。
礼をした2人は一度距離を取る。手には木刀があった。伊織がじりじりと龍虎に近づいていく。それまで動かずにいた龍虎が一気に距離をつめて、斬り込む。伊織はそれを上手くかわす。動きの速さは伊織が上だ。
伊織が踏み込んで、声を上げて木刀を振るう。木刀と木刀がぶつかる鈍い音がした。龍虎に弾かれた伊織は、また距離を取ろうとしたが、龍虎は一瞬の隙を逃さなかった。
「伊織っ!」
健一が叫んだ。ぴたりと動きを止めた龍虎と、脇腹を押さえて座り込んだ伊織。昴達は状況を理解することができなかった。
「もう任せてはおけない。伊織、自分の弱さがわかるか?」
伊織は苦しそうに顔を歪めたまま、龍虎を見上げた。
「今の伊織にとって、女であることは弱さでしかない」
静かに告げた龍虎。門下生達が驚いたように伊織を見た。伊織が女であることは、もちろん誰も知らなかった。
「龍虎様っ」
伊織が悲鳴のような声を上げた。やっと築いた信頼関係が壊れてしまう。若すぎる当主を受け入れてもらうのにも、かなり苦労したというのに。
焦った声を出すことが、女だと認めることになるとわかっていても、冷静ではいられなかった。
「おじいさま!お願いです、やめてください!」
懇願する美織の声が聞こえた気がした。ふうっと意識が遠のく。
ああ、頑張ったけど、だめだった。
涙が一筋、伊織の頬を伝って落ちた。

