少年に別れを告げる日

「伊織」

後ろから呼びかけられて、剣をとめて振り向いた。

「少し休憩したらどうだ?そろそろ疲れただろ?」
「ああ、そうだな」

健一が飲み物を持ってきてくれたところだった。礼を言って受け取る。

「美織は?」
「相変わらず。熱は朝から上がってない。ただ、食欲は全くなくて、水分補給で精一杯って感じだ」

美織はまた体調を崩していた。今までにも強いストレスがかかると体調を崩すこともあった。よほどショックだったのだろう。

「改善しなければ病院だな」
「……そうか」
「伊織が責任感じる必要ないだろ」
「でも」
「美織は伊織を心配してた。あんま心配かけるなよ」

伊織は小さく頷いた。

「しかし、龍虎様がそんなこと言い出すとはな」
「僕が弱いから、鷹栖流を守れないと思われたんだよ」

健一はぎょっとしたように目を見開くと、首を左右に振った。

「何言ってるんだよ、そんなわけないだろ。龍虎様は伊織の実力を試そうと……」
「健兄、聞いてないの?」
「何を?」
「負けたんだ、門下生に。それを龍虎様に見られた」

健一は先程以上に目を見開く。どう頑張ってもそれ以上は開かないだろうというほどだ。負けた?伊織が?と小さく呟く。

「だめだな、こんな弱気じゃ」

苦笑する伊織はいつもよりずっと小さく見えた。さっき見た伊織の動きは、はっきりわかるほど普段より鈍かった。

健一の胸は痛む。こんな小さい体で鷹栖流を背負おうとしている伊織。自分を奮い立たせようとしている伊織。

「なあ、伊織……辛いか?」
「なっ!そんなわけないだろ!」

必死に否定する様子が健一には痛々しく見えた。

「僕は当主だ。そうだろ?僕が決めたんだ」

健一は何も言えなくなった。

「僕は当主で、男じゃなきゃいけないんだ」

まるで呪いのようだと健一は思う。そうさせてしまったのは、自分も含めた周囲の人間だ。

伊織は飲み物を置いて立ち上がる。予定が変わらなければ、龍虎が来るのは明日。湊に言われた通り学校を休んだから、剣術と向き合う時間を長くとったつもりだった。

「伊織、大丈夫か?」
「もう情けない姿は見せないよ」