少年に別れを告げる日

「言い訳があるなら聞こう」

言葉とは裏腹に言い訳をする気か?というような顔をしていた。美織は様子をうかがいながら、龍虎の前にお茶を出す。

「僕の実力不足です」

伊織はそれだけ言って龍虎を見つめた。

「実力不足?」
「はい」
「では、聞くが、伊織に足りないものはなんだ?」

隠居した老人のものとは思えない、相手を射抜くような鋭い眼光。近くにいた美織のほうがひるんでしまう。

伊織は目こそ逸らさなかったが、問いに答えることはできなかった。

「お前はまだ13、経験不足はわかった上で当主を任せた。足りないのは経験でも技術でもない」

見透かされていると伊織は思った。愛刀が曲がったことは誰にも言っていないし、昔教わったやり方で直すことができた。

しかし、曲がってしまったのは事実だ。その事実は伊織を焦らせた。

「何を迷っている?そんな中途半端な者に当主は任せられない」
「僕は……」
「心の弱さは一番の弱さだ」

「強くて真っ直ぐな心を持ちなさい」、何度も聞いた言葉だ。

伊織はたまに思う。多くの人に嘘をついて、自分を偽り続けている自分は、本当に強くて真っ直ぐな心を持っているのだろうかと。

昴達に打ち明けた時、肩の荷が下りた気がした。そこで初めて、男だと偽っていることがどれだけ自分にとって負担だったかを知った。

迷いが生まれたのはそのせいかもしれない。本当にこのままでいいのか伊織にはわからなくなってしまった。愛刀が曲がったのも迷いのせいだろう。

「龍虎様」
「答えは剣で見せることだ」

龍虎は伊織の言葉を遮った。

「門下生の前でお前の剣を見せなさい。……儂が相手をしよう」
「おじいさま!」
「美織は黙っていなさい。伊織、それでいいな」
「わかりました」

それ以外の答えはなかった。口でどんなに訴えたところで、龍虎は納得しないだろう。

「来週、また来る」

伊織が鷹栖流を守りたいと思っていることは、龍虎も知っているし、龍虎もまたそう思っている。

だからこそ、弱い者が当主でいることが龍虎は許せないのだ。これまで守ってきた鷹栖流が凋落するのを見ていられないのだ。伊織はわかっていた。