少年に別れを告げる日

「緊張しすぎ」
「だいじょぶ」

顔色も悪いし、大丈夫そうには見えなかったが、本人が大丈夫と言うのだからそっとしておこうと伊織は決めた。

美織は多少無理をしてでも学校に来た方がいい。前の学校では一度休んでからずるずると行けなくなってしまったのだから。

「鷹栖(たかす)さん達、そろそろ教室に」
「はい」

職員室の隅にある椅子に座っていた伊織達に40代くらいの女性教師が近付いてきた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

美織の緊張を見てとったのか、安心させるように笑う。美織はどうにか頷いた。

***

「はい、連絡した通り、転入生を紹介しますね。入って」

伊織と美織が教室に入ると、教室はざわつき始めた。転入試験のレベルが高いと言われている美浜中学校。そこに2人が転入してくる、しかも双子だということで皆興味を持っていたのだが、今騒いでいるのはそういうことではなかった。

「静かに。さあ、自己紹介して」
「はい、鷹栖伊織です。前は公立校だったので、わからないこともあると思いますが、教えていただけると助かります。お願いします」
「鷹栖美織です……よろしくお願いします」

凛とした表情で教室を見回す伊織には中性的な雰囲気があり、意志の強そうな目が印象的だった。

目を伏せたままの美織は肌が白く、長い黒髪は艶やかで、透きとおるような美しさがあった。

顔をよく見ればかなり似ているのだが、纏う雰囲気が違うため、パッと見似ている感じはしない。しかし、どちらも目立つくらい整った顔立ちをしているのは確かだった。

「じゃあ、一番後ろ……あそこの席に座って」
「はい」

一番後ろの廊下側。2つ並んで空いている席に伊織と美織は座った。そのタイミングで隣の席の少年がよろしくと声を掛けてきた。そちらに顔を向けた伊織はハッとする。

「ん?どうかした?」
「いや、人違いだったみたいだ」

今朝、少し話した少年によく似ていたのだが、違うようだった。

「俺は槙原湊(まきはら みなと)。一応学級委員やってるからよろしく。伊織と美織ちゃんでいいんだよな?」
「ああ、よろしく槙原くん」
「うわ、固いなー。男からくん付けは嬉しくないわ。ついでに俺も双子だから名前で呼んでもらえると助かる」
「双子……」

伊織がそう呟いた時、「槙原くん」と先生が呼んだ。

「仲良くしてくれるのはいいけど、休み時間にね」
「はーい、すみません。転入生があまりに美形だったんで」

湊がおどけた様子で言って肩をすくめてみせると笑いが起きた。先生もそれ以上は怒ることをせずに話を始めた。

「俺、こんな感じの奴だけど、よろしく」

小声で言った湊は伊織の隣に座っている美織に笑いかけた。