少年に別れを告げる日

昴と湊の協力もあって、伊織は順調に学校生活を送っていた。当主としてやらなければならないことも多かったが、忙しくも充実した日々だった。

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「日本刀はよく斬れるというイメージがあるかもしれないが、実際はそうじゃない。適当に振り回したところで、斬ることはできない。
重要なのは、刃筋だ。刃筋が狂っていれば、弾かれる。刀が曲がったり、刃こぼれしたりすることもある。腕力だけで力任せに斬ろうとしても無理だ」

真剣を扱うのにはある程度の実力が必要になる。初心者が真剣を振れば、勢いあまって自分を傷付けてしまう場合もある。竹刀はもちろん、木刀や模擬刀とも違う。

鷹栖流では、師範の許可がなければ真剣での稽古はできない。今日は試斬の稽古を行うため、長く続けている者ばかりだ。

試斬が初めての門下生もいたため、伊織は教わったことを思い出しながら、丁寧に説明していく。伊織が初めて真剣を持ったのは9歳の時だった。

「実際に斬ってみないとわからないこともある。試斬をすることで、斬れる刃筋を身に付けることができるんだ」

伊織は準備した竹を斬ってみせた。その瞬間、声を上げそうになった。竹は綺麗に斬れたが、いつもと感覚が違った。刃筋が狂ったという自覚があった。

「師範?」
「……ああ、じゃあ、やってみようか」

指示を出しながら、伊織は愛刀を気にしていた。10歳の時に龍虎からこの日本刀を渡された。

9歳の時には刃筋が狂うこともあったが、1年が経つ頃には綺麗に斬れるようになっていた。この日本刀を使い始めてから斬った時に違和感を感じたのは、多分初めてだ。

「なんで……」

ぽつりと呟く。愛刀は曲がっていた。

『弾かれるのは、愚かなことだ。たとえ斬ることができても、元の鞘に収まらないような斬り方をするのは、武士にとって最大の恥辱であった』

龍虎の言葉が頭をよぎる。

『剣が曲がるのは心が弱いからだ。心の弱さは全て刀に出る』

伊織は嫌な考えを振り払う。今は集中しなくてはいけない。しかし、どんなに集中しようとしても、心は落ち着かなかった。