少年に別れを告げる日

伊織達が交通事故で両親を亡くしたのは、6歳の時だった。鷹栖流14代当主であった父の跡を継ぐ者はいなかった。

残されたのは伊織と美織……双子の姉妹だけで、跡を継ぐ長男はいなかったのだ。

養子を取ることもなく、ずっと長子相続を守ってきた鷹栖流。どんなに幼くとも長男がいれば、その子がある程度の年齢になるまでは代理を立てる形で落ち着いたのだろうが、長男がいないから困った。

先代の息子、つまり伊織達の叔父が継ぐという案もあったが、反対意見も多かった。

大人がもめているのを隣の部屋で聞いていた伊織はたまらなくなって、部屋に入った。

「伊織が当主になる」

大人達の視線が突き刺さっても、伊織はひるまなかった。

「いいかい、伊織、鷹栖流を継ぐのは男なんだよ。伊織にどれだけ才能があっても、無理なんだ」

そう諭したのは、大叔父だった。伊織は大叔父を見つめて、はっきり言ったのだ。

「じゃあ、伊織は男になる」
「子供のままごとに付き合ってる暇はないんだよ!」
「伊織ちゃん、あっちの部屋に行きましょう」

別の大叔父が声を荒げて、様子を見守っていた伯母が慌てて伊織を連れ出そうとした。

「待ちなさい」

それを止めたのは祖父である龍虎(りゅうこ)だった。見たこともないくらいに難しい顔をした龍虎が伊織に近付く。

「本気か、伊織」
「本気です、龍虎様」
「……わかった、いいだろう。次期当主は伊織だ」
「なっ……!」

皆が息を呑んだ。龍虎は伊織の肩をつかんで、言い聞かせた。

「言ったからには、男として生きることだ。女であることは捨てなさい。ただ、この年齢で決めさせるのは酷だろうから、伊織が13になった時にまた問おう」
「わかりました」

伊織はしっかりと頷いた。その日、伊織は女である自分を捨てたのだ。男として、鷹栖流15代当主として生きるために。