少年に別れを告げる日

「もうすぐ終わるから、先に出よう」

美織は静かに立ち上がる。気付いた伊織が、頼むというように美織に向かって小さく頷いた。

「道場の裏に家があるから」

美織は道場の正面に向かって礼をして、後ろ向きのまま外に出る。昴と湊もそれに倣った。

道場のすぐ裏、1分もかからないところにあったのは思った以上に大きな家だった。家というより屋敷という感じだ。見るからに広そうだが、周囲の家と比べて古く見えた。ただ、壊れそうという印象はなく、どっしりとした日本家屋だ。

「すごっ!」

思わずといった感じで昴が声を上げた。その反応に美織は肩をすくめてみせた。

「広すぎるのも考えものかもしれないよ。正直、掃除が行き届かないの」

2人で暮らすには広すぎるのだ。伊織の部屋と美織の部屋と居間、あとは台所やお風呂など、使う場所を中心に掃除をするため、使わない場所は後回しになりがちだ。

鷹栖流当主が住むことになっているから、父が当主だった伊織達はここで育った。母親がどうやって掃除をしていたのか、2人は不思議で仕方がない。育児をしながら掃除をする時間があったのだろうか。

「ただいまー。どうぞ、入って」

鍵を開けて中に入る。中に人がいてもいなくても、「いってきます」と「ただいま」は欠かさない。たまに返事がないことに寂しさを覚えることもあるが、習慣になっていた。

「お邪魔します」

居間に案内された昴達は周囲を見回した。掃除が行き届かないとはいっていたが、片付いているようだった。

美織は台所でお茶を入れて戻ってきた。いつも通り緑茶を入れたが、2人の前に出しながら失敗したかもしれないと思い当たる。

「何も聞かずに準備しちゃったけど、冷たいほうがいいかな?麦茶はあるんだけど」
「いいよ、いいよ。わざわざありがとう」

湊が笑顔で首を振る。そのタイミングで玄関からただいまと声が聞こえた。

「おかえり、伊織」
「ただいま」

少し緊張した面持ちで居間に入ってきた伊織は昴達と向き合う位置に座った。美織もその隣に座る。

「もう暗いし、そこまで時間をもらうわけにはいかないから、早速本題に入るよ」

昴はごくりとつばを飲み込む。

「湊が思っている通り、僕は男じゃない」
「はあっ!?」

大きな声を上げたのは、昴だった。湊が少し落ち着けよと声をかける。

「え、待って。何で湊は知ってんの?えっ?」
「俺は何となくそうなのかなと思ってただけ。伊織、説明してくれるの?」
「ああ、少し長くなるけど、聞いてほしい」