少年に別れを告げる日

人の気配を感じて伊織が目を開けると、ちょうど美織がカーテンを開けて入ってきたところだった。伊織の荷物を持っている。

「よかった……大丈夫?覚えてる?」
「ああ、体育の途中に倒れて……」

倒れた時の息苦しさは完全に消えていた。圧迫感もほとんどない。

「あれ?」
「苦しそうだったから、緩めたの」
「ありがとう。心配かけてごめん」
「ここまで運んでくれたのは湊くんで、私を呼びに来てくれたのは昴くんだから、お礼なら2人に」
「そうか、言っておくよ。……だめだな、こんなんじゃ」

美織はベッドの脇にあった椅子に荷物を置くと、伊織に近付いた。

「ねえ、伊織、落ち着いて聞いてね」

硬い表情で美織が言う。伊織はゆっくり体を起こしてから頷いた。

「湊くんにばれたみたい」

何が、なんて美織の表情を見れば、聞かなくともわかった。それに、湊の勘の良さは何となくわかっていた。

近付きすぎたんだと伊織は感じていた。前の学校でばれなかったのは、親しい人を作らなかったからだ。親しくなって一緒に過ごす時間が長くなれば、ごまかせない部分だって出てくる。

「昴くんは気付いてない。どうしよう」
「湊にはっきり言われたの?」
「えっと、違和感はずっとあった……俺の考えが間違ってるなら、今ここではっきり言ってほしい、って」

美織は湊が言った言葉をなるべく正確に思い出しながら伝える。はっきり女なんじゃないかと言われたわけではなかった。すぐそばに気付いていない昴がいたから、言わなかったのかもしれない。

「美織は?」
「今は言えないって答えた。伊織の気持ちが大事だからって」

伊織は黙り込んでしまった。

「湊くんが相談してほしいって言ってた。私は……私は、信用したいと思った」

美織がはっきり意見を口に出すのも珍しければ、他人を信用したいと言い出すのも珍しかった。もしかしたら、初めてかもしれない。

「全部話そう」

伊織は小さく呟いた。何かを隠せば説明に無理が出てくる。

「僕達のことを、わかってもらいたい」