少年に別れを告げる日

「美織、朝だ!」

大声で叩き起こされ、美織は目をこすりながら立ち上がる。目の前には自分とよく似た顔があった。

もう完全に目が覚めている様子の伊織からは微かに汗のにおいがした。朝から走ってきたのかもしれないと寝起きのぼんやりした頭で考える。

「体調は良い?無理はしなくていいけど、転校初日から欠席はまずい」
「ん、だいじょぶ」
「ならいい。僕はシャワー浴びてくるから、美織もさっさと準備するように」

タオルを片手に部屋を出て行く伊織。美織は障子を開け、窓も少し開けた。

朝の空気を吸い込む。冬の冷たい空気が美織は好きだった。どこか凛としていて、伊織に似ている。

あまり窓を開けていると、風邪をひくから駄目だと怒られてしまうので、ほどほどにして洗面所に向かう。

顔を洗って髪をとかす。それが終われば朝食の準備だ。家事は全て2人で分担しているが、伊織は目玉焼きも作れないほど料理の才能がないため、料理全般はいつも美織の役割だ。

***

準備を終えて、そろそろ出ようかと話していた時だった。

「伊織ー、美織ー」

大きな声と扉を叩く音。聞き慣れた声だったので、美織は鍵を開けて顔を出した。

「おー、間に合ったか」
「健ちゃん?どうしたの?」

玄関先には、健一(けんいち)が立っていた。従兄弟で2人が小さい頃からよく遊んでもらっていたため、兄のような存在だ。

「なんだよ、健兄。大学は?」
「せっかく来てやったのに、そんなこと言うなって。今日は午後からなんだよ」
「そういえば、私達が通う中学って、健ちゃんも通ってたんだよね」
「そうそう、美浜(みはま)な。当たり前だけど制服変わってないし、懐かしいわ」

伊織の学ランと美織のセーラー服を見て、健一はうんうんと頷く。

「大学も家も近いんだから、何かあったらすぐ相談しろよ」
「ありがとう、健ちゃん」
「美織、そろそろ出よう。遅刻する」

伊織は近くにあったコートを取って美織に投げる。

「うん」
「学校まで迷わず行けるか?」
「行けるよ、心配性だなぁ……。僕達、もう子供じゃないんだから」
「13歳なんだから子供だろ。でもまあ、学校までは行けるか」
「大丈夫、行けるよ。じゃあ、いってきます」
「いってきます」
「おう、気を付けてな」

2人の背中を見送りながら、健一は小さくため息をついた。

子供だと言ったが、伊織と美織は年齢の割に大人びている。環境や背負ったものを考えれば仕方ないのかもしれないが、無邪気にはしゃいでいた頃の2人を思い出すと、たまらなくなる。

「やっぱり、伊織は学ランなんだよな」

小さく呟いた健一は、先ほどよりも大きなため息をついた