少年に別れを告げる日

息が上手く吸えなかった。意識して深呼吸する。原因はきつく巻いたさらしだとわかっていた。目立つようになってきた膨らみのせいで、以前より、巻いた時の圧迫感が強い。

机に突っ伏して目を閉じる。力を抜くと少しだけ楽になったような気がする。

「伊織、次体育」

ぽんと肩を叩かれて顔を上げると、湊が立っていた。

「寝不足?顔色悪いけど、見学すんの?」
「いや、出るよ。先行ってて」

着替える時には神経を使う。なるべく人が少なくなってから着替えるようにはしているが、それでもばれる可能性はある。

***

「4月なのに暑いねー」
「ね、まだ春なのに」
「男子は外でサッカーだし、まだ体育館でバレーの方がマシかな」
「日焼けしたくないしね。美織ちゃん、白くて羨ましいなぁ」

そんな会話をしながら4人でパス練習をする。1年生の時は全て見学していた美織だが、2年生になってからは多少参加するようになった。

試合は見学だが、軽い練習なら何も問題なかった。キャッチボールに誘ってくれた紫乃のおかげか、運動への抵抗は徐々になくなった。

「集合!」

先生の指示に従って整列する。美織はグラウンドの方に顔を向けた。男子達が騒ぐ声が聞こえてくる。理由はわからないが、胸騒ぎがした。

「今日は練習試合に入ります」

先生の声が耳をすり抜けていく。

「美織ちゃん、怖い顔してどうしたの?」

隣に立っていたクラスメイトに声をかけられて我に返る。具合悪いの?と尚も心配そうな彼女に首を振って大丈夫と答えた。胸騒ぎの理由はわからないままだ。

何も起きないまま試合が始まった。美織は審判をやるグループの手伝いをするよう言われていた。見学だけの時はルールもわからずに見ていたから退屈だったが、ルールがわかれば見ているのも楽しい。友達の応援もできる。

「ちょっと!まだ授業中でしょ!?」

先生が誰かを咎める声がした。

「槙原くん!」

聞き慣れた名前に驚いて、美織が慌ててそちらに目をやると、昴が息を切らして走っていた。明らかに美織の方に向かって来ている。

「鷹栖!」
「ど、どうしたの」

思わずあとずさる。

「何やってるの、昴。美織ちゃんが困ってるでしょ?」
「伊織が倒れた。湊が保健室まで運ぶから、とりあえず鷹栖を呼んで来いって」

紫乃が驚いたように動きを止めて昴を見た。美織は一気に血の気が引くのを感じた。伊織が倒れたのはもちろん心配だが、湊が保健室に運ぶというのも気になった。ばれてしまわないだろうか。伊織の体つきは男とは違う。

「美織ちゃん、落ち着いて」
「ど、どうしよう……」
「とにかく行くぞ」

昴に促されるまま、美織は保健室に向かった。