少年に別れを告げる日

「部活、相変わらずすごいな」

グラウンドの方を見ながら、伊織が呟いた。隣を歩いていた美織も頷く。運動部の声が飛び交い、どこかからトランペットの音がする。微かに合唱も聞こえてくる。

部活に入ってない伊織と美織にはよくわからないが、美浜中学校が部活に力を入れているのは確かなようだった。

今日で期末テストが終わった。テスト前は部活が禁止されていたため、久しぶりの部活で張り切っているのかもしれない。

昇降口に向かって歩いていると、昴が通りかかった。

「あ、今帰り?」
「ああ。昴はこれから部活なんだな」
「今更だけど、伊織、入る気ない?運動神経良いから、すぐ上手くなりそうなんだよなぁ」
「悪いけど部活は入る気ないんだ」

少し残念そうな表情を見せた昴だが、あ!と声を上げて今度は美織の方を見た。

「鷹栖、見に来たことないよな?紫乃に誘われたことない?」

美織は首を傾げた。なぜ紫乃の名前が出てくるのかわからなかった。そういえば、紫乃は何部だったかと考えてみるが、聞いたことがないような気がした。

「逢沢さんと何の関係があるんだ?」
「へ!?あれ、聞いてない?」

昴が素っ頓狂な声を上げた。

「紫乃は野球部だよ。マネージャーじゃなくて、選手な」

伊織と美織は顔を見合わせた。


紫乃は確かに野球部の中にいた。男子と同じユニフォームを着て、男子と同じ練習をこなし、男子に負けじと声を張り上げていた。

人を見た目で判断してはいけない。よく言われることだが、本当にそうだ。

伊織も美織も紫乃は文化部だと思い込んでいた。長い髪を三つ編みにした、漫画に出てくるイメージ通りの優等生。多少日焼けはしていたが、気になるほどではなかった。

伊織は紫乃を食い入るように見つめていた。紫乃が動くたびに三つ編みが揺れている。女であることを隠すこともなく、堂々としている。

「やっぱり逢沢さんはすごいな」

美織は伊織を見た。紫乃を見つめる伊織はどこか悲しげだった。

視線に気付いたのか、紫乃が伊織達の方に目を向ける。先輩らしき人に何か言ってから、紫乃は駆け寄ってきた。

「あれ、どうしたの?」
「昴に見に来ないかって言われたんだ」
「紫乃ちゃん、野球部だったんだね」
「言ってなかったっけ?野球大好きなの。小学生の頃は少年野球のチームに入ってたんだよ」

思い返してみると、紫乃がプロ野球の話題を出してきたことがあった気がした。美織が全くついていけなかったため、すぐに終わってしまったのだった。

「じゃあ、私は練習に戻るね」
「邪魔しちゃってごめんね。頑張って」

紫乃は嬉しそうに手を振って美織に応えると、駆け足で戻って行った。