少年に別れを告げる日

『はい、蓮見(はすみ)です』
「もしもし、美織です」

健一が出たらどうしようと思っていたが、電話に出たのは叔母だった。美織はほっと息を吐き出す。

引っ越してきて間もない日、ちょうど健一と伊織が席をはずしたタイミングで、美織は叔母に声をかけられ、生理はまだ来ていないか聞かれた。

何か不安なことがあったら、いつでも相談に乗るからと言われた。本当は伊織にも言うべきことだが、言わなかったのは叔母の気遣いだろう。

『美織ちゃん?……あら、もう学校の時間じゃない?』

時計を確認したらしい叔母が不思議そうに言った。今急いで家を出ても遅刻する時間だ。

「今、大丈夫ですか?」
『ええ、何かあったの?』
「……伊織が、生理、来たみたいで」

叔母が電話の向こうで息を呑むのがわかった。美織だったら、反応は違ったのかもしれない。

「伊織、すごくショック受けてて……私もなんて言えばいいかわからないんです。最近、ずっと微熱が続いてたけど、私はまだだから、気付けなくて」

気付いたところで、伊織に伝えられたかはわからない。伊織は女であることを隠しきれなくなるのを、何よりも恐れている。伝えればショックを受けるのは目に見えていた。

『……わかった。すぐに行くから、美織ちゃんは学校に行って』
「はい」

電話を切って、伊織の部屋に行く。伊織はこちらに背を向けてうずくまっていた。

「伊織、叔母さんが来てくれるから、もう少し待って。先生には体調不良って伝えておくね。今日は休むでしょ?」

返事はなかった。

「私は学校行くね」

大丈夫、心配いらないなんて無責任なことは言えない。伊織の身体は大丈夫でも、心はきっと大丈夫じゃない。美織はそっと伊織の部屋を後にした。