「お? だれもいないな……。
俺の空耳か……?」
鬼センが廊下を歩きながらそう呟いた時には、あたしと高嶺は空き教室のロッカーの中にいた。
「〜〜っ!」
男子と、こんな密室で、こんな至近距離。
体のほとんどが触れているこの状況を、もちろんあたしが我慢できるはずもなくて。
「きゃ……っ」
叫ぼうとした。
が、寸前で口を高嶺に塞がれる。
「んぐっ……」
「黙れ。授業中に、こんなとこに女とふたりなんてバレたら、俺の評価がガタ落ちになるだろ」
こちらを見下ろす高嶺の顔も、声のトーンもガチだ。
本気の脅しだよ、これ。
思わず男子嫌いも忘れて、押し黙る。
鬼センも怖いけど、比べものにならないほど、今目の前にいる高嶺の方がよっぽど怖い。


