突然どこからか飛んできた怒号に、あたしは思わず顔を引攣らせた。
「うわっ、この声鬼センだ……!」
鬼センとは、怒った顔が鬼の面に似てることからこのあだ名がついた、数学の追川先生。
一見すれば体育教師みたいは出で立ちの鬼センは、怖くてあたしも苦手だ。
あたし達の話し声が聞こえたに違いない。
「おら! なにも返事をしねぇとは、いい度胸じゃねぇか!」
再び鬼センの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、それを追うようにして、すぐそばにある階段を昇ってくる足音が聞こえてくる。
「や、やばい……っ! こっち来る!」
まさに絶体絶命。
死を覚悟した、その瞬間。
不意にぐいっと手を引かれて。


