「運んできてくれて助かったわ、桜庭くん」
桜庭。
会話の中から拾ったその名前に、ぴくっと目元が反応する。
やっぱりあいつが、つかさを運んできたのか……。
「日吉さんはもう大丈夫だから、桜庭くんは戻っていいわよ。
お昼、食べてないでしょう?」
「はは、たしかに忘れてました。
じゃあ、よろしく頼みます」
そんな会話が聞こえたかと思うと、足音がこちらに近づいてきて、桜庭が保健室から出て来た。
あっちも俺に気づいたらしい。
目を厳しくすると、無言で俺の横を通り過ぎていく。
遠ざかっていく足音だけを残して、静寂が辺りを支配する。
俺は口を開いた。
「──あいつは渡さねぇから」


