「大切にしたい人ができたんだよね。
朝陽になろうとしてくれたけど、気持ちまでは朝陽と同じになれなかった。
それも、気づいてた。
だってあなたから私に触れたこと、一度もないもの」
美織の言葉に俺はうつむいた。
「でも、そうしていてくれなかったら、多分引き返せないところまで壊れてた」
気の利いた言葉が、なんにも出てこない。
美織の言葉が、すべての的を得ていた。
「つかさちゃん、だよね?」
美織の口から出たその名に、俺は思わず顔を上げた。
「最初はね、あなたに大切な存在ができたのかもって気づいた時は、寂しかった。
朝陽になろうとしてくれるあなたのことを、離したくないって思った」
静かに声を紡いでいく美織。
「でも、つかさちゃんがいなくなったって電話が掛かって来た時、初めてあなたが朝陽を演じることを忘れて、私の前で素を見せたの」
遊園地でつかさがいなくなった、そう電話がかかってきた時、美織といたことを思いだす。
あの時……。
焦ってたせいで、美織の前で朝陽を忘れていたことなんて、全然気づかなかった。


