と、その時。


「ねぇ」


高嶺に呼びかけるように、ミオリさんが声を上げた。


「ん?」


高嶺がのど飴から目を離し、ミオリさんに視線を移した瞬間。


ミオリさんが高嶺のマスクを外し、その唇に自分の唇を重ねた。


「……っ」


その光景に、しゃがみ込んだままあたしは目を見開き、思わず声を失う。


「どしたの、急に」


「見たことない笑顔してたから、つい」


ミオリさんが踵を降ろしつつそんなことを言った。


だけど、あたしの耳には届かなかった。


視界がぐわんぐわんと揺れる。


……ミオリさんは、高嶺の彼女……?


呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、肺が苦しい。

胸が、痛い。


目の前の景色が、急速に色を失った。